2. 裁判所の判断
本件では、本件違約金条項の有効性(本件違約金条項が労働基準法16条に違反して無効であるか)が争われている。そして、労働基準法における労働者に該当するかについては、契約の形式ではなく、実質的な使用従属性の有無に基づいて判断されることになる。
①指揮監督下の労働か否か
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由
本件契約上は、グループAの芸能活動の選択および出演依頼等に対する諾否は、XとY事務所が協議のうえ、決定するものとするとされていた。
しかしながら、グループAの知名度を上げる活動は基本的に全部受けることとされており、メンバーは、グループAの活動としてライブ、レコーディング、リハーサル等の日程については、可能な限り調整して仕事を受けることを要望されていた。
また、Xは、タレントとしての資質向上等のため、適宜、Y事務所の推奨するレッスンを受けなければならないともされていた。
そして、Bは、Y事務所代表者から依頼を受けて、グループAの芸能活動に深く関与していたところ、BからグループAへの具体的な指示も多数あった。
また、Xには、本件契約期間中、Y事務所に専属的に所属するタレントとして、Y事務所の指示に従い芸能活動を誠実に遂行するものとする義務が課せられていたところ、これに違反すると200万円の違約金を支払わなければならないとされていたから、上記義務は、単なる努力義務ではなかった。
そうすると、Xは、Bの指示どおりに業務を遂行しなければ、1回につき違約金200万円を支払わされるという意識のもとで、タイムツリーに記入された仕事を遂行していたものであるから、これについて諾否の自由があったとは認められない。
業務遂行上の指揮監督の有無
Y事務所は、Bに委任して、グループAの芸能活動がうまくいくように、Bが仕事を取ってきて、グループAのメンバーに対し、主にUを通じて仕事のスケジュールを決め、ある程度、時間的にも場所的にも拘束している。
そして、Uを通じてまたは直接、その活動内容について具体的な指示を与えており、その指示に従わなければ、違約金を支払わされるという状況にあったから、Y事務所のXに対する指揮監督があったものと認められる。
拘束性の有無
主にBが仕事を取ってきて、それをUに伝えて、基本的にUが受ける仕事を決めてタイムツリーに記入して仕事のスケジュールが決まり、また、グループAの知名度を上げる仕事であれば、基本的に仕事を断らないという方針であった。
仕事と私用が重なる場合には、できる限り仕事を優先するということがメンバー間で了解事項となっていたことからすると、Bが取ってきた仕事を中心に、それに合わせてスケジュールを組んでおり、そのとおりの行動を要請されていたものであるから、その限度において、Y事務所によるXの時間的場所的拘束性もあったと認められる。
代替性の有無
また、Xは、アイドルグループのメンバーとして芸能活動をしていたものであるから、労務提供に代替性はない。
以上のとおり、Xは、Y事務所の指揮監督の下、ある程度の時間的場所的拘束を受けつつ業務内容について諾否の自由のないまま、定められた業務を提供していたものであるから、Y事務所の指揮監督下の労務の提供であったと認められる。
②報酬の労務対償性
Xは、Y事務所から、平成31年1月および同年2月は月額6万円、同年3月から令和元年6月までは月額12万円、令和元年7月から令和2年2月までは月額13万円、同年3月から同年6月までは月額16万円の報酬が支払われている。
このように、Xは、Y事務所から報酬を月額で定額を支払われており、グループA加入当初は低かった月額が、在籍期間が長くなるにつれて漸次増額されているものである。
そうすると、前記のとおり、週に1日程度の休日を与えるほかは、あらかじめスケジューリングをして、時間的にも場所的にもある程度拘束しながら、労務を提供させていたものであるから、その労務の対償として固定給を支払っていたものと認めるのが相当である。
③その他
その他、本件契約上では、諸経費がXの負担とされている。
しかし、実際には、本件契約4条1項による報酬から諸経費を控除すると赤字になることから、実質的な負担はY事務所がしていたこと、交通費等は、本件契約上もY事務所の負担であったこと、Xの芸能活動により生じた諸権利がY事務所に帰属することとしている。
そして、本件契約上では、副業・アルバイト等はY事務所に事前に届け出ることにより就業することができるとされている。実際には、アルバイト等をすることはスケジュール的に困難であり、Xには固定給が支払われており、生活保障的な要素が強かったことなども使用従属性を肯定する補強要素となる。
以上によれば、Xは、Y事務所の指揮監督の下、時間的場所的拘束を受けつつ業務内容について諾否の自由のないまま、定められた業務を提供している。
その労務に対する対償として給与の支払いを受けている。
Xの事業者性も弱く、XのY事務所への専従性の程度も強いものと認められるから、XのY事務所への使用従属性が肯定され、Xの労働者性が認められる。
したがって、本件違約金条項は、労働基準法16条に違反して無効である。