退職率は人事で重要な指標
人事で活用されるKPIは多岐にわたります。たとえば採用活動においては、応募者数・内定者数・入社者数などがあります。人材育成においては、研修の受講率や、研修前後でのパフォーマンスの変化率などを用いることがあるでしょう。また、従業員のエンゲージメントでは、満足度やeNPS(Employee Net Promoter Score)などが利用されます。これらのKPIは、各人事業務のさまざまな側面を定量化し、プロセスの進捗度合いを図るうえで重要な役割を担います。
その中でも「退職率」は、人や組織の状況を把握するうえで活用される指標です。組織全体の状況だけでなく、部署別、役職別、入社経路別など、多面的な切り口で分析することで、人や組織の課題を直感的に理解できます。退職率をきっかけとして、より効果的な人事戦略や制度・施策を立案実行することもあり、特に重要とされています。
退職率とはそもそも何のKPIなのか
退職率とは、従業員が一定期間内に組織を離れた割合を示すKPIです。主に次の目的で活用できます。
- 従業員の定着度合い
- 退職率が高いということは、従業員が組織に長くとどまらない状況を示唆しています。一般的には、職場環境や労働条件、キャリアパスなどに課題がある可能性が高いです。
- 組織の安定性や生産性への影響
- 従業員が頻繁に入れ替わると、業務の継続性やチームワークに悪影響を及ぼします。結果、生産性の低下を招く可能性があります。
- 人事戦略の効果測定
- 従業員エンゲージメント向上施策やキャリア開発支援などを実施した際、退職率の変化を観測することで効果を検証できる場合があります。
このように、退職率は単に組織を離れる従業員の割合を示すだけでなく、組織の内部状況や施策の効果を把握するための重要な指標となります。また、退職率のデータは比較的容易に収集できるため、定期的にモニタリングすることが可能です。その結果から組織の課題を特定し、より良い職場環境や人材・組織開発に活用できます。
退職率の求め方にはいくつかの種類がある
退職率の基本的な求め方は、「一定期間内に組織を離れた従業員数」を「その期間の平均従業員数」で割ったものに100を掛けたパーセンテージ、と定義されます。しかし、求め方にはいくつかの種類があります。
一般的な求め方
最も一般的な求め方では、退職理由を問わず、自己都合退職、会社都合退職、定年退職など、あらゆる理由で組織を離れた従業員を「退職者数」に含めます。また、「期間」としては、月次、四半期、年次などが用いられます。そして、「平均従業員数」は、期首と期末の従業員数を足して2で割る方法が一般的です。
この一般的な求め方を用いることで、組織全体の従業員の流動性を把握できます。
組織の状況に応じた求め方
一方で、会社の状況や分析の目的に合わせて、退職率の求め方を使い分けることも重要です。
たとえば、従業員満足度や定着状況をより直接的に測りたい場合には、会社都合退職や定年退職など従業員の意思とは異なる退職を除き、自己都合退職のみを対象とした「離職率」を算出することがあります。また、新卒社員や中途社員など、特定の属性の従業員の定着状況を把握したい場合には、それぞれのグループに限定した退職率を算出することもあります。さらに、退職者のパフォーマンスに応じて、「低パフォーマーの退職」と「高パフォーマーの退職」を区別して分析する方法もあります。
このように、目的に応じて求め方を使い分けることで、組織の状況を踏まえたより深い分析が可能になります。
最適な退職率は何%なのか
一般的に「低い退職率=良い」と捉えられがちですが、実は一概にそうとはいえません。なぜなら、最適な退職率は業界特性、会社の規模・フェーズ、組織文化、採用戦略など、さまざまな要因によって異なるからです。
たとえば、高度な専門知識やスキル・経験が求められる業界では、従業員の流出は組織にとって大きな損失となります。この場合、より低い退職率(5%以下など)を目指すべきです。多角的に事業を展開し求められるスキルが頻繁に変化する会社や組織、そもそもの人材の流動性が高い業界では、ある程度の退職率(20%以上など)はやむを得ないと考えることもできます。
会社の規模によっても最適な退職率は異なります。一般的に、小規模な会社よりも大規模な会社のほうが退職率は低くなる傾向があります。また、スタートアップのような成長段階の会社では、組織の変化が激しいため、ある程度の退職は避けられないものとして捉える必要があります。
重要なのは、業界のベンチマークや過去の退職率の推移を把握し、組織の状況に合わせて退職率の目標値を設定することです。また、退職率の絶対値だけでなく、退職に至る要因や退職者の属性などを分析し、組織の課題を特定し改善につなげていくことがより重要です。