企業主導で現場がAI/生成AIを積極的に活用できる環境整備を
続いて鵜澤氏は、AI/生成AIを活用するための環境整備について、次のように言及した。
「環境整備に関して、日本は諸外国に比べて顕著に遅れている。次のグラフを見ても分かるように、『生成AIを組織全体に展開できるレベルのリスク管理プロセスが整っている』と回答した組織が圧倒的に少ないうえに、組織内における責任あるAIポリシーの整備状況もまだ半分にも満たない」(鵜澤氏)

また、他の調査結果では、企業における生成AIの導入率は24%にとどまっており、世界ランキングは16位。新興国のほうが生成AIをうまく活用しているデータもあるという。総じて、日本企業は生成AIを使っていないのだ。
もうひとつ面白いデータがある。日本企業で日常的に生成AIを活用する人の割合を見たところ、経営層が36%であるのに対し、管理職が19%、現場従業員が13%だったのである。「この傾向はグローバルで見てもふつうではない」と鵜澤氏は指摘する。「現場の従業員が生成AIを使うことに抵抗感があるということは、今後、企業として導入を考えるうえで留意すべき点だろう」(鵜澤氏)
このような背景には、「リスク回避傾向が強い」という日本人特有の従業員特性がある。そのため、個人利用が進まず、現場の従業員が環境整備と技術成熟を“待つ”状態になってしまっていると推測される。

「日本人はもともと非常に慎重な国民性だ。慎重さが功を奏することもあるだろう。とはいえ、深刻な人手不足に悩む中で、人力だけで単純なオペレーションをこなし続けるのは経済的合理性がない。いつまで様子見を続けるのか。グローバル日系企業であれば海外現地法人で実績をつくってもらって逆輸入したり、国内でもこのような問題意識を持った人や関心の高い人にユースケースをつくってもらったりするなど、積極的に動いていく必要がある」(鵜澤氏)
さらに鵜澤氏が懸念を示したのが、企業担当者がAI/生成AIの有用性を認識しているにもかかわらず、不正利用や情報漏洩リスクへの懸念、推進・選定プロセスの欠如などを理由に、環境整備を躊躇している点である。「間違いなくAI/生成AIを活用しなければならない未来が目前に迫っているのだから、経営者はAI/生成AIを活用したビジネスモデルの変革にコミットするとともに、従業員のトレーニングに投資をする覚悟を持たなければならない」と強調した。

AI/生成AIは人を不要にするのではない。そもそもAI/生成AIは人の平均的なコレクティブ・インテリジェンス(集合知)だ。だからこそ、AI/生成AIの存在を恐れるよりも、AI/生成AIのアウトプットをどう超えていくか、より精度の高い示唆を提供できるか、に注力していくべきだろう。
「繰り返しになるが、この過酷なグローバル競争の中で、AI/生成AIの活用をいつまでも様子見をしているわけにはいかない。人が万能ではないのと同様に、AI/生成AIも万能ではないと割り切ったうえで、選択肢や視点が増えるメリットを享受するという考え方が必要だ。AI/生成AIと人が競争するのではなく、協働しながら共存する世界を目指してもらいたい」と語り、鵜澤氏はセッションを終えた。