カルチャーについて誤解されがちな問いへの見解
次に、カルチャーについて誤解されがちな2つの問いと、その見解をお伝えします。
①組織の多様性と、深いカルチャー浸透は矛盾しないか
「カルチャーの構築・浸透」「カルチャーの一貫性」というと、「組織における多様性の推進」などと相反するように思われるかもしれません。しかし、両立は十分に可能です。重要なのは、カルチャーの捉え方と浸透の方法です。
前提として、「社員の価値観は完全には一致しないこと」を認識することが大切です。カルチャー浸透とは、この前提のうえで、個々の違いを認めリスペクトし、なお理解しようとする姿勢を持ちながら、組織としては守るべき普遍的な価値観(ミッション、ビジョン、コアバリューなど)を明確にし解釈レベルを一致させる取り組みです。
そのためには、カルチャーを「単一的で画一的な価値観」ではなく、「多様な価値観を包含する土壌」として捉えることが大切です。カルチャーの浸透にも、トップダウンの一方的な押し付けではなく、従業員1人ひとりが主体的に関わり、共感・共創していくプロセスが求められます。多様な意見交換や対話を通じて、「価値観は完全には一致しないからこそ、相手を尊重し理解しようとし続けることが必要だ」という、カルチャーに対する向き合い方・胆力を全社で育めます。
また、多様性とカルチャーの一貫性を両立することは、組織の活性化やステークホルダーからの多様なニーズへの対応、採用目線における企業ブランドの向上にもつながります。
②非連続成長と持続的成長は両立できないのか
非連続の事業成長が必須のスタートアップにとって、持続的な成長は遠い言葉のように感じられるかもしれません。だからこそ、HRは持続的な成長にこだわって、長期の視点で組織づくりやそのためのカルチャー構築・浸透に取り組む必要があります。
たとえば、急速な事業成長・組織拡大を目指す中で、採用では「即戦力」が求められることが多いかと思います。ただ、第1回の記事でお伝えしたように、カルチャーフィットを重視した採用の実現こそが、長期的な組織の成長につながります。
経営は短距離走ではなく、マラソンと捉えるべきです。スタートアップにおけるHRは特に、長期の視点を軸に据えながら、短期の成長も長期の成長も貪欲に目指すことが必要です。
まとめ
最後に、今回の連載でお伝えしたことを、次の2つにまとめます。
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- カルチャーは一貫性を持ちながらも、変化に対応することが重要
- 組織のカルチャーは、核となる部分と変化させる部分を明確にすることが重要です。コアバリューを守りつつ、柔軟に変化を取り入れることで、組織は持続的な成長を遂げられます。
- カルチャーを変化させるタイミングは、事業の非連続な成長タイミングとリンクするのがよいのではないかと考えます。カルチャーを変化させていく際には、経営陣の強いメッセージが必要だからです。
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- 組織拡大とカルチャーの強化とを両立させるためのメッセージ
- 組織の拡大とカルチャーの変化=強化は、両輪で進めることが必要です。メンバー1人ひとりがカルチャーを理解し、体現することで、組織はより強固なものとなり、成長を加速させることができるでしょう。
- なぜそのタイミングで変化させることが組織の成長につながるのかを、HRが率先して会社に浸透させることが、カルチャーの変化=強化を実現するキーポイントであると考えます。