⑤「カルチャー」レイヤー
理論的には、経営戦略とリソースマネジメントとタレントマネジメントがつながっていれば、人材ギャップの把握と解消はできるはずです。しかし、人材は「人間」です。最近のAIトレンドでは「エージェント型AI」のようなデジタルワークフォースが仕事をする領域が増えるだろうといわれていますが、大半の仕事はまだまだヒューマンワークフォース(人間)の役割です。
人材は、会社の思いどおりに動いたり育ったりしてくれないことがあります。従業員本人としても、働く環境やライフイベントによっては、自身で描いたキャリアに向かうモチベーションを維持し続けることが難しくなる場合もあります。そこで必要となるのが、働きやすいカルチャー・風土づくりや、従業員体験・従業員エンゲージメントの向上です。
従業員エンゲージメントは、従業員の働きがい・働きやすさを改善する、従業員の気持ちによりそう、という文脈で語られますが、経営目標を達成するために取り組むのが大前提ということを忘れてはいけません。職場の雰囲気が悪くても、仕事がつらくても、理不尽な状況があっても、誰もがパフォーマンスを発揮して、辞めることもなく、しかも社外からも人を惹きつけており、現在および将来にわたって人材ギャップのリスクがなければ、従業員エンゲージメント向上に力を入れる必要はありません。
実際には、組織の状態が良くないとパフォーマンス低下や人材流出リスクが高まることが多いので、従業員エンゲージメント向上に取り組む必要があるのですが、重要なのはサーベイでハイスコアを取ることではなく、従業員を人材ギャップ解消に向かわせる、またはギャップ拡大に進ませないようにするということです。そう考えると、従業員エンゲージメントスコアの目標点数を達成することよりも、従業員の声を集めることのほうが重要です。
⑥「仕組み・変革」レイヤー
人事戦略を遂行していくための仕組み化・変革も必要です。具体的には、「組織」「制度(施策やルールを含む)」「プロセス」「ITシステム」「データ」の仕組み化を進め、「マインドセット(意識)」を醸成するチェンジマネジメントを行うことが必要となります。
仕組み化・変革は簡単ではありませんが、最低限考慮すべき点としては、
- すべての要素を考える(「制度のみ:新制度を導入すればよい」「ITシステムのみ:タレマネシステムを導入すれば解決する」などと安易に考えない)
- 各要素にむやみに序列をつけない(人事の方は制度に対してITシステムを劣後させて考える傾向がある)
- 変革に聖域をつくらない(簡単に変えがたい組織や人事制度も必要に応じて見直す)
などがあります。