ジョブ型・メンバーシップ型とは異なる「第3の選択肢」として
以前より、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は対極的な制度であることは論じられてきた。本稿では、それらとスキルベース型雇用がどのような関係にあるのか、特に「日本企業はどのような進路を採るべきか」という観点から意見を述べたい。
日本企業(メンバーシップ型)の進路には、次の3通りがあると考えられる。
- 進路①:ジョブ型へ移行する
- 進路②:いったんジョブ型へ移ってからスキルベース型へ移行する
- 進路③:ジョブ型を経ずにスキルベース型へ移行する
どの進路を選択するかに「正解」はない。それは各企業の意思決定によるものであり、企業業績が向上し、ステークホルダーに付加価値が提供できれば、それがその企業にとっての正解である。結果論かと問われれば、答えは「イエス」である。民間企業での施策の成否は、あくまでも企業業績で語られるべきものである。
とはいえ、もちろん「おすすめ」はある。多くの企業にとって、どの案が最も合理的かといった観点での回答である。私のおすすめは、進路③「ジョブ型を経ずにスキルベース型へ移行する」である。理由を次に述べる。
まず大前提として、遅かれ早かれ、世界のリーディングカンパニーはスキルベース型へ移行していくと筆者は予想している。日本を代表するような企業はすべてグローバル企業なので、その流れに従って、日本企業の海外現地法人もスキルベースへ移行していくと考えられる。それゆえ、まず進路①「ジョブ型へ移行する」という企業は少ないと思われる。
次に、「スキルベース型へ移行するために、いったんジョブ型へ移る必要があるのか」との論点があるが、筆者は不要だと考えている。一方、スキルベースを導入する際に、職務記述書がスキル定義の元データとなることから、いったんジョブ型へ移行することでソフトランディングが見込めることも確かである。しかし、本稿のテーマである雇用への適用を考えるならば、それを1回変更するだけでも全社を挙げての大作業であり、短期間に2回も人事制度を変更して従業員の生活を混乱させてはならない。
今般、スキルベース型の登場により、人事制度を検討する際にはメンバーシップ型とジョブ型に加えて「第3の選択肢」が生まれた。今後、日本企業の人事担当役員や人事部のみなさまはそれを念頭に置く必要がある。特に、昨今、ジョブ型への移行を検討する日本企業が散見されるが、スキルベース型も選択肢に含めて検討することをおすすめしたい。
日本企業への導入は、「無理せず、選択的に」が結論
本連載では、これまでスキルベース組織の概要を解説しながら、日本企業への適用について筆者の意見を述べてきた。その際、特に「日本企業ならでは」との論点に言及した。
たとえば、スキルの可視化にあたり、日本人独特の「恥ずかしい」という感情をどう扱うか、人材育成では日本企業のキャリア面談を「スキルに関する対話の場」へと変革すべきとの提案や、採用では日本独自の新卒一括採用との関係、雇用では日本企業の本流である総合職との関係について論じてきた。これらの論議を通じて、日本企業に適合しやすいようにカスタマイズした「日本型スキルベース」の導入を勧めてきた。
総じていえば、日本型スキルベースとは、欧米型のスキルベース組織を日本企業の組織文化に合うように少しソフトな形に変形したものであり、「無理せず、選択的に」使っていこうというものである。ただし、今後もスキルベース組織は欧米のリーディングカンパニーを中心に導入されていく可能性が高いので、グローバル企業である日本の大企業は引き続きウオッチしていく必要があるだろう。
以上の背景には、欧米と日本の長年にわたる雇用環境の違いがある。欧米ではジョブ型雇用の環境をもとにジョブ、ロール、スキルといった専門職タイプの概念が定着しているが、日本ではメンバーシップ型をもとにしたゼネラリスト職の意識が強い。そのことから、どう考えてもスキルベース組織は欧米のほうがなじみやすく、日本では「無理せず、選択的に」との結論とならざるを得ない。
さて、本連載では、これまで企業におけるスキルベース導入について論じてきた。これを「スキルベース組織」と呼ぶが、この対象をさらに社会全体へ広げた「スキルベース社会」という概念もある。主人公は個人であり、個人が生涯にわたり自らのスキルを管理・活用していく社会を目指すものである。シンガポールなどではすでにこの実装が始まっており、全国民のスキルが管理・活用されている。
近い将来、AI革命を迎えるにあたり、日本国でもシンガポールと同様にスキルベース社会の実現が期待される。次回(第5回)では、視点を企業から社会全体へ移して、スキルベース社会について論じたい。