「状況改善重視型」の改善方法①~調査結果の役立て方
状況改善重視型は、エンゲージメント調査において、「働く環境や従業員意識に関する課題を解決したい」「従業員のパフォーマンスやリテンションを向上させたい」といった状況を改善することを最重視する考え方です。状況改善のために調査結果をどう役立てるべきか。まずは、調査の結果から分かることと活用ポイントを紹介します。
(以降、本稿では「従業員エンゲージメント」「従業員エンゲージメント調査」は、「エンゲージメント」「エンゲージメント調査」と表記します)
1従業員エンゲージメントスコアとキードライバー
エンゲージメントスコアは、経営の方向性や自身の働きがいのようないくつかの設問の総合スコアであることから、重要指標であるものの、スコアそのものだけでは状態が良い/悪いくらいしか分かりません。
ですので、よくあるエンゲージメント調査のフレームワークでは、エンゲージメントスコアにプラスまたはマイナスの影響を与えているキードライバー項目がセットになっています。「キャリアの機会」「組織の風通し」「組織間の壁」「経営と現場の意識の乖離」「処遇の妥当性」「業務負荷」などです。企業全体に対しても役立ちますが、組織単位でエンゲージメントとキードライバーの関係が分かると、現状分析や改善検討がしやすくなります。
2財務/非財務指標との関係性
コンサルティングファームなどの複数の専門機関が、エンゲージメントスコアが財務/非財務の経営指標にプラスのインパクトを与えることは統計的に正しい、という趣旨のレポートを発表しています。
しかし、かつては経営層や社外ステークホルダーがその点を認識しておらず、エンゲージメント調査やその改善活動にお金や労力をかけることが良く思われなかったこともあったようです。そのため、自社の調査結果と社内の重要指標を用いて相関分析や重回帰分析を行い、エンゲージメントスコアが財務/非財務の経営指標にインパクトを与えることを示すことで、改善活動の正当性を示す企業もありました。
その後、ESGや人的資本経営が流行り始めてからは、「エンゲージメントは重要だから調査するのは当たり前」という風潮になったため、わざわざエンゲージメント改善に取り組むことの正当性を示す必要がなくなってきました。ただし、エンゲージメント調査の実施有無や調査結果の開示内容を企業評価項目に含める投資家もいるようで、開示の延長で「柳モデル」のような効果算出モデルを使って分析結果を開示している例もあります。
ただし、自社データでの分析をする/しないにかかわらず、財務/非財務指標にインパクトがあるからといって、エンゲージメントスコアの高低に注目し過ぎないように気をつける必要があります。「スコア重視型」になってしまうリスクがあります。
3文字回答(自由記述のフィードバック項目)
状況改善のために調査するのであれば、本人自由記述のフィードバックを収集することが有効です。テキストの自由記述回答は、記載粒度のばらつきがありますが、キードライバー分析よりも具体的に課題や従業員が考えていることを把握できます。
しかし、自由記述回答は「何か書かれると読まないといけない」「たくさん書かれると読み切れない」などの理由でエンゲージメント調査担当者から嫌われてきました。「エンゲージメント調査の設問設計時に自由記述欄を故意につくらないようにした」「項目を最小限にした」という事例は多いです。
また、改善意欲が高くない企業では、「従業員の声を集めてしまうと、改善対応を検討しなければいけなくなる。スコアを取れれば十分で、従業員の声は拾わなくてよい」という意見が出てくることがあります。スコア重視型の典型例です。
最近では、自由記述回答のサマリー作成や対応事項整理をAIに任せる例が出てくるなどで、自由記述回答も扱いやすくなりました。「すべてのコメントを読む負荷」の課題は解決できそうです。状況改善に役立てたいという意思があるのであれば、従業員の声を聴くことが重要です。
なお、会社・組織へのフィードバックは受け止めるべきですが、すべての要望に対応する必要はありません。
4回答率・参加率
会社や経営に対して興味がない、フィードバックする意思がないという人は、そもそも調査に回答しません。ネガティブフィードバックをする人は会社に改善してもらって長く働きたいという想いがあることが多いですが、回答しない人はそれ以上に深刻な状況であるかもしれません。調査への回答率は参考程度にしか見られないことがありますが、実はとても重要な指標です。
従業員の働きがいやチーム生産性を重視する企業では、自発的に調査に参加することを重視している例もあります。あるグローバル企業では、対外的にエンゲージメントスコアを開示しておらず、調査への参加率(回答率)とコメント数のみ開示しています。会社・組織を健全にするには従業員が会社や上司にフィードバックする文化が必要との考えから、スコアそのものよりも、従業員が自発的に調査に参加していることや、積極的に課題提起や改善提案をしていることを重視しているからです。また、社内では各組織長が自組織の状況改善に役立てられるように、エンゲージメントスコアや各設問の回答状況なども合わせて開示しています。
一方、日本企業は100%の回答率を目指すべきという考えで、締め切り近くのリマインドラッシュや、未回答者の上司への声かけなどを行い、半強制的に回答させようとすることが多い印象です。日々の仕事に追われて調査回答が忘れがちになる人もいるので、回答リマインドは必要ですが、回答を強制し過ぎると調査への参加意思を測ることができません。強制はほどほどにしておくことをおすすめします。
以上の4点をまとめると、エンゲージメント調査からは次図のようなことが分かるといえます。

