「状況改善重視型」の改善方法②:上司の改善意欲の高め方
従業員1人ひとりのエンゲージメントに大きな影響を与える要素の1つは「上司」です。マネジメントスタイルにかかわらず、部下である従業員は上司から何らかの指示を受け、評価される関係にあるので、上司の考え方や行動によってエンゲージメントは上下します。つまり、上司本人がエンゲージメントの改善意欲を持っていることが重要です。
エンゲージメント向上を推進する部署の方は、「エンゲージメントが高いというのは、従業員がいきいき、わくわく、にこにこ、がつがつ働いているということで、それはパフォーマンス向上につながるはずなので、上司として重視するのは当たり前ですよね!」と管理職の方々に重要性を説明します。しかし、上司の立場からすると、重要性に異議を唱えたりはしませんが、エンゲージメント信者でない限り、自身・自組織に直接の影響が見えなければ本気で改善・維持しようとはなりません。
そこで、上司の改善意欲を高めるための方法をいくつか紹介します。
1上司自身の評価に直結させる
社内平均やベンチマークとの比較、前回からの上昇・下降などを定量的に把握し、上司の評価に直結させることで、良くも悪くも改善意欲は上がります。ただし、前回からお読みの方は分かると思いますが、「スコア重視型」になってしまうリスクも大きいです。良い組織文化があり性善説で運用が回る企業であれば機能すると思います。しかし、多くの企業では現場まで性善説の文化が浸透していないため、賢い上司ほど「スコア重視型の改善方法」で紹介したようなハイスコア獲得の裏技を駆使しはじめます。ですので、評価直結はあまりおすすめしません。現場の1人ひとりの回答に直接的な影響を与えづらいマネジメントの上位層に対する評価や、役員報酬のKPIに含めるというのは有効かもしれません。
2組織業績との相関を示す
組織業績との相関性を示すことで改善意欲を促す方法です。エンゲージメント調査を扱うコンサルティングファームなどから、エンゲージメントと会社業績・組織業績に正の相関がある、統計的にポジティブなインパクトを与える、などの情報が出ているので、元ネタ探しには困りません。しかし、統計ベースの話では自社・自組織への実益・実害が分かりづらいため、上司は否定はせずとも自分事として受け取らず、自身のマネジメント論を変えてまで改善をがんばろうとはなりません。自社データでのインパクト分析や社内の好事例の展開により、社内の身近なところでも具体的に改善活動をして良い効果が出ていると伝えれば、改善意識を高められるかもしれません。
3キャリア自律の”超”推進文化をつくる
組織長である上司に、自組織のリテンションを高めることや良い意味での人材輩出組織になることを本気で考えさせるという方法です。従業員のキャリア自律を促す仕組みを作ることと、上司に自組織の組織・人材マネジメントの責任を負わせることで成り立ちます。
具体的にどのようなことなのか、キャリア自律の仕組みがうまく回っているグローバル先進企業の事例を紹介します。
キャリア自律施策として、各組織の人材需要を透明性のある社内公募案件を通年で公開します。最低限の条件を満たしたほぼ全従業員が応募の権利を持ち、新たな役割に挑戦したい従業員は現上司への通知義務なく公募案件に応募できます。選考に合格したら現上司に拒否権がなく異動が確定します。一方、上司側としては部下が異動で抜けてチームの人数が減っても組織目標は変わりません。良い人材での欠員補充が早期に必要となります。欠員の募集・選考に関しては人事が「支援」をしますが、人材獲得の責任は組織長である上司にあります。上司やその組織運営が魅力的であれば応募は集まりやすいですし、悪い評判のある組織にはなかなか手が挙がりません。むしろ、さらに人材が流出してしまうリスクがあります。
このようなキャリア自律文化があると、上司はエンゲージメント向上に本気になります。望まない人材流出リスクを低減させるためにも、社内外から自組織に人が入ってきたくなるような組織にしようと、エンゲージメント調査結果やフィードバック結果に真剣に向き合うようになります。人事から見るように言われなくても上司自ら結果を知りたくなります。
以上、上司の改善意欲を高める方法を3つ紹介しましたが、最も効果があるのは③の方法です。しかし、日本企業のキャリア自律の取り組みは、新たなキャリアへの挑戦機会である公募案件や応募可能者を限定したり、欠員補充の責任は人事にあったり、上司が部下を囲って異動させないことが黙認されていたりと、上司がエンゲージメントを気にしなくても人材充足される仕組みになっていることが多い印象です。
キャリア自律を“超”推進させるためには、社内の人材需給の適正管理、透明性のあるキャリアの挑戦機会の提供、上司に人材マネジメントの責任・権限を持たせるピープルマネージャー化などが必要となります。その変革は簡単ではありませんが、「キャリア自律」を掲げる企業はここまで考えてみてもよいと思います。

