3. 要点解説
(1)懲戒解雇について
懲戒解雇は企業が行える最も重い懲戒処分です。
客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当といえる場合に限って有効となります。
金銭の不正受給・横領・経費不正など「金銭的不正」については、労使の信頼関係を根底から損なう行為として、裁判所の判断が厳しくなりやすいのが一般的です。
しかし、金銭に関する不正であれば常に懲戒解雇が当然に認められるわけではありません。
主に次の内容を総合考慮して、懲戒解雇という処分が必要な事案かを判断されます。
- 行為の悪質性・故意性
- 会社の被害・金額の程度
- 期間・反復性
- 発覚後の説明・反省・返還状況
- 過去の処分歴
- 他の処分との均衡
(2)今回のケース
Xは通勤経路を安いルートに変更したのに会社へ申告せず、高い旧ルートの定期代を約4年8ヵ月受給していました。
行為自体は就業規則の懲戒事由に該当し得る不正受給です。裁判所も不誠実な対応があった点は認定しています。
一方で、不正受給は問題であるが、懲戒解雇という処分は行き過ぎと判断しました。
裁判所の見解をまとめると次のとおりです。
- ルートは時間・距離的に合理的で、当初から詐欺目的で遠回りを申告したわけではない。
- 差額は月6810円、総額でも約34万7780円で、会社の経済的損害が大きいとはいえない。
- 賃金カット等の背景や、会社側が安価な経路へ変更を求めてこなかった運用実態があった。
- 組合との通勤手当の扱いをめぐる団体交渉の渦中で、Xとしても対応が困難な面があった。
- Xに過去の懲戒歴がなかった。

