事業部長の「期待値」を書き換えられているか
事業の言語を身に付け、論点を立て、データで提言できるようになったとします。それでも変革が頓挫するケースがあります。スキルの問題ではなく、関係性の問題です。「信頼の種類を変える」という本稿の問いは、ここで最後の壁にぶつかります。
変革が頓挫するもう1つの理由
事業部長が「戦略的パートナーであってほしい」と口では言いながら、「目の前のオペレーションも素早く処理してほしい」という矛盾した期待を同時に持っている。この構造が解消されないまま、HRBPだけが変わろうとしても関係性は変わりません。期待値を意図的に再設計するプロセスが必要です。
まず、事業部長やマネージャーがHRBPに日常的に何を期待しているかを徹底的にヒアリングして言語化します。否定せず、現場の切実なニーズとして受け止めることが重要です。次に、HRBPが本来提供すべき高付加価値活動である組織課題の構造的な特定、事業計画から逆算した中長期の要員計画、人材投資のROI提言を具体的に示します。そのうえで「ビジネスの成功」という共通ゴールのもとで、HRBPの有限なリソースをどこに投下すべきかを事業部長と協議します。
この対話を通じて、HRBPと事業部長は「作業処理者」という暗黙の契約を破棄し、「戦略的パートナー」という新しい関係を結び直すのです。それはすなわち、事業部人事時代から続く「全員が顧客」というパラダイムを手放し、事業リーダーを主要な顧客として据え直すことにほかなりません。
今いる場所から、一気に跳ぶ
本稿で提示した3つのアプローチは、どれも明日から取り組めることです。まず自分のカレンダーを見て、「攻めの判断」が何割を占めているかを確認する。事業部長との次の1on1で、「今期の事業目標に対して、組織・人材の観点で最も重要な論点は何か」と問いを1つ立てる。それだけで始められます。
こうした変革を阻むのは意識だけの問題ではありません。「事業戦略を人の論点に翻訳する」「データで事業部長と議論する」といった能力は、多くのHRBPにとってこれまで求められてこなかったものです。能力開発への投資も、変革の一部として位置づける必要があります。
グローバルとの差は大きい。だからこそ、段階を踏んで追いつこうとする発想を手放すことが出発点になります。「御用聞き人事」としての蓄積がないことは、むしろリープフロッグの好条件かもしれません。今いる場所から、一気に跳ぶ。それがHRBPにいま、求められていることです。

