1年以内の離職率を半減させた泥臭い定着支援 生成AIで“個への寄り添い”を3万人へ拡張できるか
「エンゲージメントやウェルビーイングの施策は、本社のオフィスワーカーを中心に進んできたのではないか」──。アビームコンサルティングの佐藤一樹氏によるこの提起に、心当たりのある企業は少なくないはずだ。2026年5月20日にクアルトリクス合同会社が開催したイベント「Experience Live Tokyo」では、この課題に真正面から向き合うソラストが登壇した。医療や介護、保育を支える約3万人のエッセンシャルワーカーの声に耳を傾け、見事に離職率を改善させた企業である。本稿では、ソラストの菅野透氏と、アビームコンサルティングの佐藤氏・西垣智裕氏が、現場への泥臭い実践的アプローチと属人的なケアを拡張する生成AI活用の展望について語ったセッションの模様をお届けする。
エッセンシャルワーカーのエンゲージメントが置き去りにされていないか?
セッションの冒頭でアビームコンサルティングの佐藤氏は、「世の中のエンゲージメントやウェルビーイングを向上させる取り組みは、本社のオフィスワーカーを中心に進んできたのではないか」と問題提起した。
「エンゲージメントやウェルビーイングの施策を導入する際、『現場のラインを止めるわけにはいかないし、とりあえずオフィスワーカーからやろう』となり、現場のエッセンシャルワーカーたちが置き去りになってきたのではないでしょうか」(佐藤氏)
佐藤 一樹(さとう かずき)氏
アビームコンサルティング株式会社 People & Culture Strategy Unit, Director
外資系コンサルティング企業にて、タレントマネジメント、AIを活用したHRテクノロジー、従業員エンゲージメントマネジメントに関わる新事業の立ち上げをリード。同社に入社後はその経験を活かし、人的資本経営実現に向けたエンプロイヤーブランディング・AIネイティブ組織構築支援事業をリード。キャリア論修士。
Workvivo社が世界の現場社員に対して行った調査でも、その懸念は裏付けられている[1]。回答した現場社員の50%が、会社は現場の社員よりもオフィスで働く社員を大事にしていると感じているという。
注
[1]: Workvivo 「The Frontline Gap」
佐藤氏は、「本社と現場の間に、大きな隔たりがあるということをこのサーベイは示しています。この数値は、日本社会のエッセンシャルワーカーに対する課題そのものです」と指摘した。
この課題に真正面から向き合っているのが、ソラストである。同社は1965年の創業以来、60年以上にわたって事業を展開しており、現在では医療、介護、こども(保育)の3領域で約3万人の従業員を擁している。従業員の約90%が女性で構成されているのが特徴だ。
佐藤氏によると、ソラストは「3万人以上におよぶ現場社員の声をあらゆるタッチポイントで拾い上げ、気持ちを可視化すること」「生成AIを黒子として活用しながら現場1人ひとりの声に応え、ケアを拡張していくこと」の2点に取り組み、目覚ましい成果を上げているという。
「スコアが改善しない」——3万人の声を可視化した先に
続いて登壇したソラストの菅野氏は、同社が抱えていた課題と取り組みを紹介した。
「実は、病院の受付や会計で働くスタッフの多くが直接雇用ではなく、当社のような企業が業務委託を受けて配置しているスタッフであることをご存じでしょうか。当社では、全国1400以上の医療機関でこうした業務を担っているほか、介護事業では全国700以上の事業所でさまざまなサービスを運営し、さらにはこども事業として首都圏で60以上の保育園を運営しています」(菅野氏)
これらの事業は、現場に人がいなければ成り立たない労働集約型のビジネスモデルだ。しかし、人口減少や少子高齢化に加え、働き方の多様化が進む中で、人材確保は極めて困難な状況に陥っている。さらに、医療、介護、保育といった業界は離職率が高い分野だ。採用が際限なく続く事態を避けるためにも、社員の定着はソラストにとって最優先課題であった。
菅野 透(かんの とおる)氏
株式会社ソラスト IT戦略本部 IT企画室 室長
大手ITベンダー、外資系メーカー等を経て現職。一貫してICT戦略立案や大規模システム刷新を牽引し、現職ではAI採用システムや全社人事基盤の導入を統括。社会保険労務士やシステムアナリストなど高い専門性を背景に、NHKスペシャルの出演や講演実績も多数。人とテクノロジーの融合を追求し、エンゲージメント領域の変革をリードする。
そこでソラストは、社員の声を拾い上げ、先んじて対策を打つための仕組みづくりに着手した。
年に1回の全社員を対象としたエンゲージメントサーベイや法定のストレスチェックに加え、行政の指針に基づき、介護領域では「虐待の芽チェックリスト」、保育領域では「人権擁護のためのセルフチェックリスト」など、事業特性に合わせた声の収集を実施している。
しかし、可視化ができたからといってすぐにスコアが改善するわけではなかった。菅野氏によれば、2022年からスコアを取り始めたものの、各事業本部でさまざまな施策を打っても、約3年間にわたりエンゲージメントスコアは決して高くない水準で横ばい状態が続いたという。
「エンゲージメントサーベイを始めた当初は、結果が出て可視化できたことに喜んでいたのですが、2年目の結果を見てみたらスコアがまったく変わっていなかった。そこで、やはり何か手を打たないと変わらないのだと実感して、今も模索している段階です」(菅野氏)
菅野氏は、エンゲージメントという言葉自体が現場の職員に馴染みがないため、その意味を啓蒙するワークショップを開催するなど、地道な活動を進めていると明かした。
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井上奈美香(HRzine編集部)(イノウエ ナミカ)
1994年宮崎県生まれ。京都女子大学文学部国文学科を2017年に卒業し、株式会社翔泳社に新卒として入社。メディア事業部の広告課に配属される。2020年8月に人事向けWebメディア「HRzine」の立ち上げに参画し、HRzineの営業責任者に従事。2023年4月よりHRzine編集部に所属。
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