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労働基準法大改正 | 2026年、AI政策の理解と雇用の世界観の構築が必須

融合して進む国のAI政策と雇用政策 人事戦略は「自社は何のために存在し人はどう働くのか」を軸に考えよ

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 いまAI政策、労働基準法改正、人的資本経営という3つの大きな改革が同時進行している。これらは独立した動きではなく、「働く価値を高め、多様な働き方を実現する」という同一の方向を指して、互いに融合している。企業がこれらの変化に対応するためには、各制度へバラバラに対処するのではなく、自社の働き方と存在意義の全体像である「世界観」を描き切ることが不可欠だ。本稿では、AI政策と雇用政策の融合という最重要な構造変化をひも解いていく。特に5月末に発表された、日本成長戦略会議の労働市場改革分科会の「とりまとめ」ほか、多様な雇用政策においてAIがどのように言及されているか網羅性をもって参照する。そしてそれらをもとに、いま対応すべきであり、AI時代において企業が取り組むべき人事戦略の5つのステップを提案する。

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AI政策が雇用に関して実施されている——人事戦略の前提が変わった

 「AIが仕事を奪うか?」「AIで人手不足を補えるか?」。こういう議論はもう古いのではないでしょうか。2025年から2026年にかけて、政策の世界ではまったく別の次元の動きが起きています。そしてそれは、人事・労務の実務者や経営者の仕事の前提を根底から変えるといえるものです。

 なお筆者は前稿「労基法大改正は論点拡大で別物に AI政策と雇用政策も一体化する中で企業は雇用に『世界観』を持つべし」で、改正論点がAI政策・人的資本経営と合流して「2幕構造」へ拡大し、2026年夏が1つの節目になると述べました。本稿はその続編として、AI政策と雇用政策の融合という最も見えにくい構造変化に焦点を絞ります。

 いま、2027年に向けて3つの改革が同時に動いています[1]。まず40年ぶりの労働基準法(以下、労基法)改正が論点拡大し、徹底的に議論されています。また、人工知能基本計画(以下、AI基本計画)が雇用政策と一体的に推進されています。さらに、人的資本経営の制度的拡充が行われています。これら3つは別々の話ではありません。すべてが「働く価値を高め、多様な働き方を実現する」という同一の方向を指しています。

 問題は、この方向性が見えているかどうかで、企業の動き方がまったく変わることです。方向性を読んで先行している企業は、労基法改正が来るたびに「追認された」と感じていると思います。見えていない企業は、改正があるたびにゼロから対応しています。この差は、もう取り返しがつかないところまで来ているのかもしれません。

 本稿では、この3つの改革のうち最も見えにくく、かつ最も重要な構造変化といえるAI政策と雇用政策の融合を解説します。これが分かれば、労基法改正も人的資本経営もバラバラに「対応すべきこと」ではなく、1つの方向性の中で自然につながって見えるからです。

AI政策と雇用政策はすでに一体として設計されている

労基法改正の出発点にすでにAI社会への視座があった

 AI政策についてまず確認しておくべきことは、AI政策と雇用政策の融合が「最近になって突然始まった」のではないということです。

 今回の労基法大改正の前提となった「新しい時代の働き方に関する研究会報告書」(2023年10月、座長:学習院大学名誉教授 今野浩一郎氏)は、すでにデジタル社会・AI社会の到来を前提に据えた報告書でした。同報告書は、リモートワークの急速な普及やデジタルデバイスの進展によって「事業場」の物理的な枠組みが崩れつつあること、企業がスマートフォンなどの技術によって事業場外の労働も相当程度把握できるようになったこと、そして監督行政にもAI・デジタル技術を積極活用すべきことを明記しています。

 「画一的」な働き方から「多様性を生かす」働き方へ、そして主体的なキャリア形成が可能となる環境整備が重要である——報告書はこの方向性を鮮明に示しました。

 この報告書の核心は、法令の性質を「守る」(労働者保護の最低基準設定)から「支える」(多様な働き方の戦略的設計を後押しする)へと拡張するという発想です。筆者は一貫して発信しているのですが、雇用法令は「守る法から支える法へ」転換していることは、この研究会報告書で明確に示されています。そしてその「支える」先に、デジタル化・AI活用を前提とした新しい働き方が想定されています。つまり、労基法大改正は最初からAI社会とともに動く設計を内包しているのだといえます。

AI法制が2025年に急速に整備された──労基法改正と並行するもう1つの流れ

 こうした労基法改正の検討が進む中で、別の軸でもう1つの大きな動きが進行していました。AI法制の整備です。当初は別々の政策として検討されていましたが、後述するように、この2つの流れは2025年後半から2026年にかけて急速に合流していくことになります。

 2025年は日本のAI法制にとって画期的な年でした。AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が6月に公布・9月に施行され、12月にはAI基本計画が閣議決定。AI事業者ガイドラインも改訂が進み、法律・計画・ガイドラインの3層構造が一気に確立されました。

 雇用関連の制度として最重要なポイントは、このAI基本計画の中に4つの基本方針が掲げられたことです。第1〜第3方針(利活用推進・開発力強化・ガバナンス)は技術政策です。しかし、第4方針「AI社会に向けた継続的変革」は性格がまったく異なります

AI基本計画「第4方針 AIと協働する」──技術政策の中に雇用政策が組み込まれた

 第4方針では「AIと協働する」という言葉を中心に、AI社会を生き抜く「人間力」の向上、人とAIの役割分担の模索、AI活用を前提とした働き方の変革を掲げています。注目したいのは、この方針の主管が内閣府と厚生労働省であること。AI政策が雇用政策に「影響する」のではなく、AI政策の中に雇用政策が最初から組み込まれているのです。

 ここから読み取るべきメッセージは明快です。「AIは効率化の道具ではない。個人の力が最大化される社会を設計するための前提条件である」。これが国の基本方針です。「新しい時代の働き方に関する研究会」が描いた理念が、AI基本計画という国家レベルの政策文書の中に制度として実装されたのだといえます。

成長戦略会議──AIと雇用政策が同一テーブルで設計されている

 AI政策と雇用政策の一体化は、さらに具体的な制度設計のレベルでも進行しています。

 2025年11月に設置された日本成長戦略会議は、17の戦略分野と8つの横断課題を同一フレームワーク内で同時に扱っています。その中で、17戦略分野の筆頭にAI・半導体を置き、8つの横断課題の1つに労働市場改革を位置付けました。重要なのは、AI・半導体の戦略分野と労働市場改革の横断課題をいっしょに議論し、AI活用による産業構造転換とそれに対応する人材の育成・流動化・働き方の変革を、同じ会議体の中で一体として設計している点です。

 実際に、2026年3月の労働市場改革分科会第1回会合では、「AI・ロボット利活用による省力化」と「リスキリングと労働移動の促進」が同一の議題として提示されました。AIが事務型業務を代替することで余剰になった人材を、AIを実装・運用する領域やAIでは代替できない現場領域に移動させる。この一連の設計が、成長戦略会議の中で1つのストーリーとして議論されているのです。

 4月の第2回会合では、厚生労働省事務局の論点整理資料に経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」が正式に転載され、論点9で「人材マネジメントと経営課題の解決の一体実施」が明示されました。AI政策・人的資本経営・労働法制が、同一の事務局資料の中で融合的に議論されている。これが2026年の政策動向の実態です。

 そして2026年6月、この分科会は議論を労働市場改革の「とりまとめ」として確定させました。とりまとめが示した労働市場改革の柱といえる施策には、AIが関係する主要施策が複数あります。AI・ロボットの活用を含む省力化・自動化投資、リスキリング支援、円滑な労働移動などです。

 より具体的なAI活用を含む施策として、就業構造の変化を見据えてAI・ロボットを利活用できる人材の育成を重視すること、労働市場の「見える化」やハローワークのマッチングにAI・デジタル技術を活用すること、厚生労働省が開設した労働情報の総合プラットフォーム「みんなの労働ナビ」にAI機能の装備を検討することなどが、具体的な実装策として明記されました。AIによる産業構造の転換と、それに対応する人材の育成・移動・働き方の変革が、1つのストーリーとして政府の確定文書に落とし込まれたのです。

2040年就業構造推計──成長戦略会議の議論を支える根拠データ

 成長戦略会議と労働市場改革分科会の議論を支える決定的な根拠データとなっているのが、経済産業省「2040年の就業構造推計(改訂版)」です。この推計は分科会第1回会合で資料5として正式に提示され、以降の全論点の前提となっています。

 結論は明快です。

  • 全体としての大規模な人手不足は生じない。ただし、職種間の深刻なミスマッチが発生する
  • 事務職に約437万人の余剰が生じる一方、AI利活用人材は約340万人、現場人材は約260万人、専門職は約181万人が不足する

 この推計は「量ではなく質のミスマッチ」という認識転換を促し、成長戦略会議の全体設計を支えています。人手不足対策一辺倒だった議論を、「AIによる代替を前提とした産業構造転換と人材移動」という質的な問題に転換した。リスキリングと労働移動を「選択肢」ではなく「成長の必須条件」として位置付けた根拠が、この推計です。

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この記事の著者

松井 勇策(マツイ ユウサク)

産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の知見を融合した対...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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