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労働基準法大改正 | 2026年、AI政策の理解と雇用の世界観の構築が必須

融合して進む国のAI政策と雇用政策 人事戦略は「自社は何のために存在し人はどう働くのか」を軸に考えよ

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企業にとって何が変わるのか

 政策の構造は分かりました。では、それがあなたの会社にとって何を意味するのでしょうか。端的にいえば、「AIへの対応」「労基法改正への対応」「人的資本経営への対応」をバラバラにやっている限り、永遠に後追いになるということです。

 3つは同じ方向を指している以上、統合して捉える視点が必要です。もはや「人事戦略を立案する」というだけでは不足といえます。AI活用と法制度と人材育成を、自社の事業の方向性に照らして統合し、「自社はこれからの時代にどのような働き方を実現し、どのような価値を生み出す組織であるのか」を描き切ること。筆者はこれを「世界観」と呼んでいます。戦略の上位に位置する、自社の働き方と存在意義の全体像です。この世界観を持てている企業だけが、3つの改革に先手を打てています。

AI活用は「業務の代替」ではなく「企業の存在意義への問い」

 AI基本計画の第4方針「AIと協働する」が企業に突きつけているのは、「AIに何をさせるか」ではなく「AIがある世界で、この企業は何のために存在し、人はそこでどう働くのか」という問いです。

 筆者はAI基本計画の第4方針を精読し、企業がAI活用と働き方の変革を考える際の4つの視点をフレームワークとして整理しています。この4つは突き詰めれば、自社が何を実現するか(実現)と、人がどう力を発揮できるようにするか(支援)という、2つの方向にAIを注ぎ込むための視点だといえます。

第1の視点「軸:人間力の向上」
雇用の世界観や戦略の洗練、サーベイ分析やタレントマネジメント分析、労務分析、会議の構造化など、自社の方向性を定め磨き上げるためにAIを活用します。
第2の視点「基盤:制度・枠組み」
内外へのメッセージの洗練と実装、理念浸透や研修などのコンテンツ形成、判断材料の提供など、人が価値を発揮するためのコミュニケーション基盤をAIで支えます。
第3の視点「機会:産業への展開」
内部や外部への提案の価値の増大、AI活用方法の言語化、必要な情報の取得と活用など、事業そのものの価値をAIで高めます。
第4の視点「実装:人材の確保と育成」
経営や人事のシミュレーション、業務の棚卸しや人の再配置、経営計画やロードマップの洗練──そもそも「AIは何を行い、人は何をするか」の戦略設計です。

 このフレームワークをクライアント企業への支援やセミナーの場で提示すると、誰もが第4方針の真意に気づきます。「AIをどう使うか」ではなく「自社の何を強化するためにAIを位置付けるか」に問いの立て方が変わるからです。AI導入の議論が「効率化」から「方向性の設計」に転換する。それが第4方針が企業に求めていることの本質です。

2025年の人的資本開示から見えてきたこと

 この「方向性を持っているかどうか」の差は、すでに具体的な形で表れ始めています。2025年の人的資本情報の開示を分析すると、先行企業の特徴が鮮明に浮かび上がります。

 ある大手総合商社は、成果と労働時間を基軸に働き方全体を改善しながら、事業運営全般にAI活用を進展させています。AIの導入を「効率化プロジェクト」としてではなく、「この会社で人はどう働くか」という全体設計の中に位置付けているのです。そのため労基法改正にもAI導入にも、同じ軸で対応できています。

 ある大手電機メーカーは、3年間で生成AIプロフェッショナル5万人の確保を、人的資本KPIに明記しました。注目すべきは、AI人材の確保を「技術対応」ではなく「人的資本戦略」としていることです。AIは技術の話ではなく人材の話である——この認識の転換が、人的資本開示の中にはっきりと読み取れます。

 また別の大手電機メーカーは、AIを活用した「キャリアカウンセラー」システムを導入し、従業員1人ひとりのキャリア形成と個別育成を本格的に稼働させています。AIが担うのは定型的な情報提供と初期アセスメントであり、人間のキャリアコンサルタントはより深い対話と判断に集中する設計です。

 さらに別の企業では、AIで業務時間の大幅削減を達成すると同時に、熟練技術者の暗黙知をAIに継承する「知の永続化」構想を進め、人間固有の知識を組織の資産として位置付け直す試みが始まっています。

 これらの企業に共通しているのは、AIも労基法改正も人的資本開示も、バラバラの「対応事項」としてではなく、自社の方向性という1つの軸の下で統合されていることです。彼らは「対応」しているのではなく「設計」している。その設計の軸が、筆者のいう「世界観」です。

自社で何をするか——AI時代の人材戦略と世界観の創造から実施へ

 では具体的にどう動くか。筆者は5つのステップを提案します。

ステップ1:雇用政策と社会変動の理解
労基法改正・AI政策・人的資本の3つの潮流を構造的に把握し、自社と関連する論点を整理する。本稿で示したように、これらは別々の話ではなく一体として設計されている。その構造の理解が出発点です。
ステップ2:経営戦略を参照した世界観の確立
自社の経営戦略と照らし合わせ、「今後の自社にとって何が重要か」を言語化する。制度の前に原則を定める。「AIがある世界で自社は何のために存在し、人はどう働くのか」という問いに自社の言葉で答えること。それが世界観です。
ステップ3:ロードマップづくり
世界観に基づき、政策の流れや今後2年の労基法改正対応と自社施策を1本の計画に統合する。
ステップ4:社内コンセンサスの形成
法令政策の方向性を下地にして経営層・現場と議論し、合意を形成する。前稿「労基法大改正は論点拡大で別物に AI政策と雇用政策も一体化する中で企業は雇用に『世界観』を持つべし」でも参照したiU組織研究機構とチームスピリットとの共同調査で明らかになったように、働き方に関する制度や人事制度は一貫性のある構築と、それに基づく信頼の上でしか機能しません。その信頼は、丁寧な対話と合意形成を通じてしか築かれません。
ステップ5:世界観の戦略的な実施
個別の法令対応やAI導入を、世界観の実現手段として位置付け、継続的に展開する。労基法改正もAI導入も、世界観の下に統合されて初めて「戦略」になります。

 本稿で述べたAI政策と雇用政策の融合は、2026年夏に3つの政府文書として一斉に形になります。骨太方針2026(財政・成長の基本方針)、日本成長戦略(17分野と労働市場改革の投資ロードマップ)、そして規制改革推進会議の実施計画(AI社会実装を阻む規制の見直し)です。

 先ほど触れた労働市場改革の「とりまとめ」は、このうち日本成長戦略に反映されていきます。3つはいずれも「働く価値を高め、多様な働き方を実現する」という同じ方向に収束しており、これらが出そろう夏が、自社の世界観を持っているかどうかが最初に試される関門になります。世界観を検討しつつある企業にとっては、雇用政策は強力な後押し、かつ具体的な推進材料となるはずです。

 政策の方向性を待ってから動くのではなく、政策とともに自社の未来を設計していく。3つの改革が同時に動いている今こそ、それが求められているのではないかと思います。

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この記事の著者

松井 勇策(マツイ ユウサク)

産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の知見を融合した対...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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