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データで見る従業員エンゲージメント<広告業界編>

広告業界は“30代の停滞”が課題 現場に「挑戦と納得感」を取り戻す従業員エンゲージメント向上のヒント

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「内向きな現場」と「戦略を接続しない中間層」が生まれてしまう構造

 広告業界の構造的背景もこの状況を後押ししています。

 マス4媒体中心の時代は、メディア枠の販売とクライアントの大量出稿が利益を生む構造でしたが、デジタル化以降、案件は小口化・短納期化している中で成長を求められるようになり、現場は「目の前の数字」に追われる体質になりました。一方で、上層部はマス時代の意思決定モデルから抜けきれず、データドリブンの企業への転換に時間がかかっているケースも少なくありません。さらに、クライアントの内製化とAIの進化によって、「自社の付加価値とは何か」という戦略とも密に紐付いた根本的な問いが現場に突きつけられています。

 実際のデータでも、30代の相関上位には「継続的な改善活動」「適切な採用・配置」「戦略目標への納得感」が、20代の上位には「継続的な改善活動」「顧客ニーズの伝達」「スピーディな顧客対応」が並びます。若手は「現場でちゃんと前に進めること」を求め、30代は「自分の役割と戦略がつながっていること」を求めている。両者をつなぐマネジメントが弱ければ、20代より先に30代の熱量が下がるという、いまの業界の構図が説明できます。

広告業界におすすめのエンゲージメント向上施策とは

 ここから先に求められるのは、「自社のエンゲージメントは高いから安心」という見方を捨て、中間層の底上げに注力することです。具体的には、「戦略を現場まで言語化して届けること」「中間層に『戦略と自分の役割の接続』を意図的に設計すること」「事業や業務の改善活動と組織や人材に関連する改善活動を同じ会議で扱える体制をつくること」の3点が出発点になります。

 組織として、「短期のクライアントワーク」と「中長期の組織変革」を同じテーブルで議論し、中間層を巻き込んで意思決定する場をつくることが重要です。

広告業界のエンゲージメント向上ストーリー~サイバーエージェント、セプテーニ、電通の例~

 実際に、広告業界の中でもデジタル領域を牽引する各社は、独自のアプローチで人材の活性化を進めています。

サイバーエージェント:抜擢人事の仕組み化で「20代・30代の熱量」を上げる

 サイバーエージェントは、年に1〜2回、合宿形式で新規事業や組織改革案を議論する「あした会議」を2006年から続けています。役員自らが社員4〜5名のチームを組み、得点形式で評価された案がそのまま事業化されるため、若手・中堅にとって「意思決定の中枢に直接アクセスできる場」になっています。

 さらに、属人化を防ぐために「強化指定社員セレクション会議」を導入し、若手抜擢を会社全体の仕組みとして運用。エンゲージメントサーベイでは87%の社員が「働きがいがある」と回答するなど、抜擢のカルチャーがエンゲージメントの底上げに直結しています。

セプテーニ:データと個性に基づく「再現性のある人材育成」

 セプテーニグループは、独自の人材育成方程式と、約6000名の社員データを活用したAIエンジン「HaKaSe」を中心に、データに基づく採用・育成を進めています。FFS理論を用いて社員1人ひとりの思考行動特性を5因子で可視化し、「個性×環境」の組み合わせから活躍度を予測する仕組みを構築。15以上の人事ソリューションと30以上の研究レポートを通じて、人事を「経験と勘」から「データと再現性」へと転換しています。

 2025年にはHRテクノロジー大賞において、人事マネジメント部門 優秀賞を受賞しており、デジタル業界における「科学的な人事」の代表事例となっています。

電通:人事制度改革による「成長スピード」と「エンゲージメントの経営アジェンダ化」

 電通は2024年から人事制度を大きく改定し、大半の社員が6年目からプロフェッショナルクラスに昇格する機会を得られるようにしました。従来は約10年かかっていた昇格プロセスが大幅に短縮され、若手・中堅の挑戦と成長のスピードが上がる設計です。

 さらに、エンゲージメントスコアを役員報酬の指標に組み込み、組織状態の改善を経営層のコミットメントとして位置づけています。「伝統的な広告会社」の代表格が、ジョブ型人材マネジメントと働き方改革を組み合わせながら、組織のアップデートを進めている例といえます。

おわりに

 広告業界は、業界全体では全国平均を上回る一方、中間層の停滞という構造的な課題を抱えています。マスメディアの時代に確立した「枠を提供する定形業務の組織」から、データと人を起点に「事業を共創する組織」へ進化するためには、現場の目標達成意欲、戦略の納得感、顧客起点の改善行動の3つを同時に高めていく必要があります。

 データが示すのは、変革の鍵は「中間層に挑戦意欲と自社戦略を自分の言葉で翻訳する当事者意識を醸成すること」にあります。経営層と人事がここに本気で踏み込んだとき、広告業界は再び、社会と顧客を動かす「次のクリエイティビティ」を生み出していくはずです。

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この記事の著者

花岡 健太(ハナオカ ケンタ)

株式会社リンクアンドモチベーション コンサルタント モチベーションエンジニアリング研究所 研究員。
東京大学農学部卒業後、大手損害保険会社を経て中途入社。従業員エンゲージメント向上サービス「モチベーションクラウド」やコンサルティングを通じて、100社超の組織変革を支援。現在は、研究員としてデータ分析・活用も担う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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