プランド・ハプンスタンス・セオリーとは
「プランド・ハプンスタンス・セオリー(計画された偶発性理論)」とは、偶然の出来事や出会いをキャリアアップにつながる機会と捉える理論で、スタンフォード大学のジョン・F・クランボルツ博士が1999年に発表しました。博士がビジネスパーソンを対象にキャリア分析を行ったところ、本人が予期しない偶然によってキャリアが構築されている人が8割いたことから、従来の数年後を見据えて計画的にキャリアを構築するのとは対照的な手法として提唱されています。
プランド・ハプンスタンス・セオリーが説くのは、どのような姿勢で取り組むと目の前の仕事が“やってよかった”と思える「偶然の出来事(ハプンスタンス)」になるのかです。やってよかったと思うためのスキルは、特別なものではありません。誰もが持っています。部下が思うように成長しない、学ぼうとしない、仕事に興味を持とうとしないと感じている場合、その部下にプランド・ハプンスタンス・セオリーが説くスキルを自覚させてあげることで、意識や姿勢が変わってくることでしょう。
プランド・ハプンスタンス・セオリーが説くスキルには、次の5つがあります。
- 好奇心……興味を持つ
- 持続性……簡単にあきらめない
- 柔軟性……柔軟にチャンスを活かす
- 楽観性……前向きに取り組む
- リスクテイク(冒険心)……結果が分からなくても、行動を起こす
以降では、プランド・ハプンスタンス・セオリーの5つのスキルについて、仕事に不安を抱え、やる気を失っている部下を上長が励ます例を見ながら説明していきます。
本田:IT企業に勤める2年目の若手社員(25歳)
上原:20歳年上の上長(45歳)
スキル①「好奇心」
本田「上原さんは、どうしてこの仕事に就こうと思ったのですか」
上原「本田、いきなりどうした?」
本田「本当はプログラマーになりたかったのに、今やっているのはシステムの運用保守。これでいいのかなと。でも、上原さんはいつも一生懸命で、きっとこの仕事を天職だと思っていますよね。うらやましいです」
上原「天職!? そんなふうに思われているのか。でも、天職だなんて一度も感じたことはないよ」
本田「そうなんですか? でも毎日楽しそうですよ」
上原「それはきっと、この仕事を行うことを今は必然と思えているからかもしれないな」
本田「必然?」
上原「私も入社時はプログラマーになりたかったんだよ。ただ、与えられた仕事は何でもしっかりやろうと努めていたら、今やっているようなシステム運用・保守の仕事に偶然出会った。思い描いていた仕事とは違うけど、やってみると奥が深い。ITのことだけではなく、お客様の業界のことも知らなきゃいけないからね。業界用語を勉強しながら現場で対応していくうちに、この仕事に興味を持ってしまったんだ」
本田「僕もこの仕事が楽しくないわけではありません。ただ、IoTやAIが世界を変えると言われているのに、このままでいいのかなぁとよく思うんです」
上原「確かに、できる仕事とやりたい仕事は違うかもしれない。ただ、今の仕事に面白さを感じているのであれば、その面白さをもっと追及してみてもいいんじゃないか。もしかしたら、できる仕事がやりたい仕事になるかもしれないよ」
本田「そうなのですか……」
上原「プランド・ハプンスタンス・セオリーを提唱したクランボルツ博士は、“キャリアプランなんていらない! 目の前の面白いことに一生懸命取り組んだ結果がキャリアになる!”と言っている。でも、そのためには好奇心が大事なんだ」
プランド・ハプンスタンス・セオリーの1つ目のスキルは「好奇心」です。一見、関心の薄いことでも、仕事を分解したり人間関係を見直したりすると、案外面白みを感じていることに気づくことがあります。上長は自己開示をしながら、部下の好奇心が向いている先を見つけてあげましょう。すると、仕事に対する姿勢が少しずつ変わってくることでしょう。