重視すべきは「Candidate Experience」
こうした状況を踏まえ、山根氏は「人事は候補者と企業の関係が対等な立場に近づいていることを理解しなくてはならない」と指摘した上で、「年齢、性別、経験に限らず、優秀な人材を正しく見極め、自社の魅力を高め、選んでもらう道筋を作るべき」と訴える。
また、エンジニア採用で認識しておくべきこととして、技術トレンドの変化への理解も重要だという。例えば、プログラミング言語一つをとっても、国内のプログラミング言語別平均年収ランキングを比較すると、2008年から2017年で上位5位が完全に入れ替わっている。常に自分のスキルを高める努力を続けているエンジニアを引き付けるには、「人事も社内でどんな先端技術が使われているかを理解することが必要」だと山根氏は説く。
その山根氏が、これからのエンジニア採用で重要視するのが「Candidate Experience(候補者体験/選考におけるユーザー体験)」である。Employee Experienceが組織の中で社員が働くときの体験に焦点を当てたものであるのに対し、候補者が採用に至るまでの体験を指す。候補者とのタッチポイントはその会社を知るところから始まり、接点を持ち、実際に会い、採用に至るまでデジタルもリアルも様々なものがあるが、どのタッチポイントからでも快適な体験価値を提供することを重視する考え方といえるだろう。
米国ではこのCandidate Experienceに注目し、採用プロセスを整備する企業が増えている。GoogleはCandidate Experience Managerを任命していたり、AirbnbはCandidate Journey Mapを作成し、候補者が採用に至るまでのジャーニーを継続的に見直していたりするのはその代表例である。
さらに、山根氏は海外の複数の調査結果を引用し、Candidate Experienceの向上が企業にとっていかに重要なものであるかを説明した。例えば、米人材派遣会社のKelly Servicesの調べによれば、優れたCandidate Experienceを提供されたとしたら、候補者の「95%が再び選考を申し込む」「97%が知り合いにも同様に進める」「88%がその会社の製品を購入する可能性が高い」「55%がソーシャルメディアなどで体験を積極的に話題にする」ことがわかっている。この結果は、マーケティングにおける顧客体験の向上と同様に、採用時の体験も候補者とのエンゲージメント構築に役立つことを示唆する。
また、IBM Smarter Workforce Instituteの調査結果でも、Candidate Experienceが候補者の意思決定に重要な影響を及ぼすことがわかっている。選考プロセスに満足した候補者の54%が採用オファーを承諾しているが、満足していない候補者が採用オファーを承諾したのは39%と差がある。また、最終選考で就労条件、給与、福利厚生や成長機会の有無などを比較検討しているときには Candidate Experienceが決定要因になるという。
こうしたCandidate Experience向上の取り組みは、まさに「攻めの採用」の実践だろう。さまざまなアクションが求められる。山根氏も「採用担当はオペレーティブな業務をすることであると捉えられがちだが、実は革新の余地が残っている」と強調した。