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シスコ「DevNet」とその資格が育むアプリ&ネット両利きエンジニアはITも社会も変えていく原動力

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2020/09/14 06:00

 シスコシステムズ(以下、シスコ)が運営している開発者向けプログラム「Cisco DevNet」(以下、DevNet)。アプリケーション開発者&インフラ技術者のためのネットワークプログラミングコミュニティとして、資料や学習リソースを提供してきたが、2020年2月より新たな認定資格として「DevNet 認定プログラム」(以下、DevNet認定)をスタートさせた。この資格を取得することによって、エンジニアはもとより企業にとってどんな利益がもたらされるのだろうか。シスコおよび、シスコ認定プラチナラーニングパートナーとしてDevNet認定プログラムに対応した育成プログラムを提供するトレノケートの2社に話を聞いた。

DevNetはこれからの“両刀使いのエンジニア”を育てる

――まずはDevNetとはどのようなものか、教えていただけますか。

シスコ 土屋征太郎氏(以下、土屋):DevNetは、アプリケーションプログラミングインターフェイス(API)やプログラミングに関する一般的な情報を中心とした、テクノロジーを学習するためのコンテンツを発信する「Webサイト」の機能と、エンジニア間でサポートし合う「コミュニティ」の機能を持ち合わせたプラットフォームです。DevNetは2014年にスタートしていて、現在では全世界で50万人以上が参加するコミュニティに成長しています。

 DevNetはもともとアプリケーション開発者向けに、シスコ製ネットワーク機器と他社製品の接続をサポートすることからスタートしたプログラムです。そのため、アプリケーション開発者が主な参加者だったのですが、近年ではシスコのコアユーザーであるネットワークエンジニアも増えてきました。また、今はネットワークもソフトウェアシステムとしての側面を強めており、我々もプログラミングができるエンジニアを、シスコ製ネットワーク機器を使いこなせるパワーユーザーとして重要視しています。DevNetを通じて、ネットワークエンジニアとアプリケーションエンジニアの境界線をなくし、新しいITエンジニアのロールを創出したいと考えています。

土屋 征太郎氏
土屋 征太郎(つちや せいたろう)氏
所属:システムズエンジニアリング
役職:執行役員
1999年シスコシステムズに入社。パートナー事業、エンタープライズ事業、コーポレート事業を担当するシステムズエンジニアリング部門を経て、2016年9月よりシステムズエンジニアリング部門を統括。

――新たにDevNet認定を2月から始められたということですが、シスコがDevNetに注力されている背景を教えてください。

土屋:デジタルトランスフォーメーションに対する意識が高まっているなかで、ITの見直しを図る企業が増えている現状があります。これに伴ってネットワークとアプリケーションの連携が、ますます重要になってきています。加えて、昨今のコロナ禍によって、クラウドの台頭が著しく、次世代のインテグレーションが求められています。シスコが改めてDevNetにフォーカスする背景には、こうしたトレンドについていけるエンジニアを増やしたいという思いが込められています。

――これまでのエンジニアは「アプリケーションだけ」とか「ネットワークだけ」といった分業制が主流でしたが、これからはどちらもできる“両刀使いのエンジニア”が求められてくるのですね。

土屋:そうですね。どちらも分かっていたほうが、エンジニアとしての価値が上がりますし、ビジネスにとっても大きなメリットになると考えています。

シスコの新たな認定資格「DevNet認定」とは?

――改めてDevNet認定とは、どのような資格になりますか。

土屋:DevNet認定は、ソフトウェア開発者、DevOps エンジニア、自動化のスペシャリスト、およびその他のソフトウェアプロフェッショナルスキルを認定するものとなっており、まさに“両刀使いのエンジニア”のスキルを認定するための資格となっています。

――トレノケートではDevNet認定に対応したコースを開設されたそうですが、受講者の方はどのような動機でお申し込みされているのでしょうか。

トレノケート 吉田聡志氏(以下、吉田):一番多いのは、現在シスコ製品を触っている方です。個人的にネットワークの自動化などに興味がある方や、DevNetに関する知識を体系立てて学びたいという方がお越しになっている印象ですね。逆に、シスコとはまったく関係のないインフラよりの開発や運用に従事されてきた方で、資格ができたことを機に、新しいスキルにトライしたいと受講された方もいらっしゃいました。

――トレノケートでDevNet認定コースをスタートされたのはいつから?

トレノケート 日鷹仁司氏(以下、日鷹):まずはDevNet Associateに対応した「DEVASC」というコースを7月末からスタートしました。また、DevNet Associateの上位資格としてDevNet Professionalというものがあるのですが、こちらで必ず取得しなければならない「コア試験」の対策コースを「DEVCOR」として8月より開講しています。

日鷹 仁司氏
日鷹 仁司(ひだか ひとし)氏
職務:インストラクター
資格・認定:CCIE Enterprise Infrastructure、シスコシステムズ認定インストラクター(CCSI)、CCDP、CCNP Data Center、VCP 6.5
Cisco社認定トレーニングの中でエンタープライズインフラストラクチャカテゴリ関連コース、およびCisco Data Centerカテゴリコースで運用と設計(CCNP Data Center)関連コースを担当。また、ネットワーク一般コースとセキュリティトレーニングに関する企画、開発、実施も担当している。 シスコシステムズ認定インストラクター(CCSI)歴は15年を超え、Instructor Excellence Award を5年連続で受賞している。
メッセージ「コース実施に際しては、できるだけお客様と対話しながら進めていくようにしています。ご質問はいつでも歓迎していますので、コースご参加の際はお気軽にご質問ください。認定コースで演習内容が難しいコースでは、独自の補足資料を作成してご理解いただくように工夫しています」

――企業単位でDevNet認定コースに申し込まれるケースはありますか。

吉田:始めたばかりなので、お申し込みはまだですが、お問い合わせは増えています。DevNetにはスペシャライゼーションというパートナープログラムがありまして、DevNet系の資格取得者が企業に一定数以上いると、認定されるものになっています。したがって、会社の戦略としてDevNet スペシャライゼーション認定を受けることを目指している企業から、「DevNet認定の合格者を増やしたい」とお問い合わせをいただいています。

――DevNet認定の取得者に対し、インセンティブを出している企業を聞いたことは?

シスコ 山口朝子氏(以下、山口):シスコのトップリセラーである複数のパートナー企業では、DevNet認定のトレーニングを受講する方に対し、会社から補助を出す制度を設けています。他にも、会社として「DevNet認定の資格取得者数を今年中に何人輩出しましょう」と目標に掲げて、合格者には報奨金を出すなど、人事のインセンティブを検討しているというお話も聞きますね。

トレノケート 平賀宏一氏(以下、平賀):私のほうでも、「DevNet認定の資格取得者数の目標はどれくらいを目指すべきか」「合格者のインセンティブはいくらに設定すべきか」といったことを考えるために、DevNet認定の位置付けや難易度に関するお問い合わせを、人事部の方からいただくことは増えています。自動化やプログラマビリティがビジネスに寄与するという理解が深まることで、よりスピーディに進んでいくのではないかという印象を持っています。

平賀 宏一氏
平賀 宏一(ひらが こういち)氏
所属:営業本部
役職:シニアアカウントマネージャ
生まれは1967年、トレノケート(前グローバルナレッジ)は2002年に入社。前職はSIerで法人営業を担当。10年以上においてトレノケートのシスコトレーニング販売促進のチームをリードしている。シスコ社やパートナーとのリレーション構築やトレーニング企画、営業案件サポートを主に担当している。

――ではCCNA・CCNP・CCIEのようにDevNetが定番の資格になるのも、時間の問題という感じですね。

山口:そうですね。資格制度にDevNet認定が追加されるというアナウンスは昨年からグローバルで発表されてはいたのですが、今年に入っていよいよ日本語での受験も可能になったことで、注目は高まっていると思います。また、コロナ禍によって変化したエンドユーザーの新しいニーズに応じて、既存のサービスやソリューションをアジャイルで進化させる必要に迫られている企業も増えているので、DevNetに対する興味・関心も高まっていることを実感しています。

DevNet人材がこれからのビジネスにもたらす価値

――具体的にDevNet認定の知識が実務で求められるようなケースとは、どのようなものでしょうか。

山口:例えば、医療現場で、これまでは医師とコロナ患者が対面でコミュニケーションをとっていたところを、なるべく非接触な形に変えていこうということで、APIでWebexと連携して、病室の状況を医師が待機する部屋にリアルタイムで映し出すような取り組みは今年6月くらいには実装されていました。従来は「1年かけてやりましょう」と進めていたプロジェクトも、今は「明日にでも欲しい」というスピード感で進めなければならない状況になっていますので、さまざまなところでDevNet認定の知識が役立つ場面は増えていると思います。

山口 朝子氏
山口 朝子(やまぐち あさこ)氏
所属:パートナー事業、ストラテジックアライアンスビジネス開発部
役職:開発部長
2016年4月にシスコ入社。アライアンス、エコシステムパートナーでの営業、マーケティングを担当。DevNetの新規パートナーの開拓や既存のリセラーパートナーへの啓蒙、イネーブルメント、コミュニケーションなどを行う。

――DevNetの人材育成は早く進めないと、あっという間に人材不足に陥るかもしれません。

山口:そうなんです。NTT西日本グループで約200拠点の通信ネットワーク環境の構築から開通・運用サポート・修理をされているNTTフィールドテクノ様では、通信設備の維持管理業務からより付加価値の高い設備系 BPO事業へのシフトチェンジを推進する過程で、CML(Cisco Modeling Labs[1]) APIを活用した新たな研修プラットフォーム「バーチャルリモートラボ(VRL)」を構築されています。これによって、いつでもどこでも研修を受講できる環境が整い、Off-JT(学び)と OJT(実践)のサイクル短縮化につながったということで、「第9回日本HRチャレンジ大賞」のイノベーション賞を受賞されています[2]

[1]: 【参考】Webセミナー「Cisco Modeling Labs(CML)を使ってネットワークを学ぼう!」基礎編応用編DevNet編

[2]: 【参考】株式会社NTTフィールドテクノのDevNet活用事例

――DevNetを活用した事例がもうすでに生まれてきているのですね。

土屋:このような事例も含め、DevNetのコミュニティに参加することで、エンジニア同士の横のつながりが生まれ、そこから新しい気づきを得て、どんどんビジネスチャンスが広がっていくと、素晴らしいのではないかと考えています。

――DevNetに精通したエンジニアが社内にいることは、企業にとっても大きな価値になりそうです。

山口:はい。企業にとってDevNetの価値は、大きく3つあります。1つめは、企業がお客様にシステムを納品するまでの期間を短縮できるため、顧客満足度を高められること。2つめは、プログラミングで自動化されたものを導入・納品するため、ヒューマンエラーを圧倒的に減らし、新たな顧客提案に時間を使うことができ、企業の競争力の強化や利益率の向上につながります。3つめは、個人のエンジニアにとっては、優秀なDevOpsエンジニアになることで、自身の価値向上につながることです。

――エンジニアのキャリアアップの新しい道筋ができたと捉えることもできるわけですね。エンジニアの定着化の観点からも意義があることだと言えそうです。

山口:パートナー企業のなかには、DevNet人材の育成に力を入れることは、新たな人材獲得にも寄与するとおっしゃっているところもありますね。従来のようにアプリ側からの要請によってネットワークのコマンドを叩いて、ネットワークのバージョン管理や運用を行うというような業務だけではなく、DevNetの学習を深めることで、ネットワークの知識を身に付けつつ、コードによるインフラの自動化やネットワークとOSSを組み合わせたCI/CDなど、ソフトウェアの領域での技量を高めることができ、より競争力のあるエンジニアになれるという意味で、若い世代のエンジニアの職種としての魅力を高めることにつながるのです。

DevNet認定でもスタンダードを目指す

――トレノケートでDevNet認定の対策コースを開講されてみて、ネットワーク系の方にソフトウェアの知識を教える上で、何か苦労されていることはありませんか。

吉田:受講者の感想で一番多かったのが、「Pythonのプログラム言語が思ったよりキツかった」というものでした。DevNetの概要を把握するだけであれば、サンプルコードをもとに進めることはできるのですが、より丁寧にDevNetのエッセンスを汲み取ろうとすると、Pythonの習熟が大きなハードルになってしまうようです。弊社としてPythonの入門コースの用意はしているものの、それとは別に、DevNet専用のネットワークエンジニア向けのPython入門コースを用意する必要があると感じているところです。

吉田 聡志氏
吉田 聡志(よしだ さとし)氏
職務:インストラクター
資格・認定:シスコシステムズ認定インストラクター、ネットワークスペシャリスト、情報セキュリティスペシャリスト、
SIerでコンピュータ インフラの構築業務に従事した後、現職に至る。 Cisco や Microsoft などのサーバー/ネットワーク インフラの研修コースを担当。 「楽して学ぶ、楽をするからたくさん学べる」を目標に、わかりやすい講義ができるように心がけている。
メッセージ「ネットワークの学習は、ITエンジニアにとってお得な買い物です。ネットワークはコンピュータにとって不可欠な技術要素です。変化の早いコンピュータ業界ですが、ネットワークの基礎知識を習得しておけば、クラウドやセキュリティなどの新しい分野にも短期間で対応できます」

――通常のPython入門と切り分ける必要があるというのは、なぜでしょう?

吉田:通常のプログラム入門では文法から学習します。そうすると、実務との関連性が分かりにくいため、なかなか興味をもって学習を進めることができません。今回、DevNetというシスコ製品を動かしながらプログラミング言語を学習していく道筋が開きましたので、「これまで自分が手入力していたコンソールのコマンドを、Pythonに置き換えたらどうなるのだろう?」と確認しながら学習を進めることができるのではないかと考えています。

――確かに、そのほうがネットワークエンジニアの方にとってゴールのイメージがしやすく、スムーズに入っていけそうです。まだDevNet認定コースはスタートされたばかりということですが、今後どのような展開を予定されていますか。

日鷹:今年度中はDevNet認定コースを担当できるインストラクターを増やすところから始め、企業研修としてもご活用いただけるよう、認知度を高めていきたいです。

吉田:まずは、先ほど申し上げたPythonのファーストステップをクリアするためのDevNet対応プログラムを強化することと、弊社ではDevNet以外にもインフラの自動化や管理のコースも提供していますので、既存のコースとDevNetをうまくつなげられるような研修プログラムの作成・提供を目指していきたいと考えています。

――なるほど。では最後に、シスコとしてDevNetに関する直近の動きや、今後の展望を教えていただけますか。

土屋:今年の2月に、弊社のお客様やパートナー企業、学生の方に参加いただいて、2日間にわたるDevNetのアイデアソン&ハッカソンを初めて開催しました[3]。また、シスコ社内でもアジアパシフィック全体で同様のコンテストを開催し、DevNetのユースケースを考えてみる取り組みを始めています。そのなかでは、ショッピングモールのトイレに行列ができるのを解消するために、センサーで行列の人数を検知して、空いているトイレに行くとクーポンが発行されるような仕組みなど、さまざまな分野で面白いアイデアがたくさん発表されました。このようなシスコ製品だけではなく、サードパーティ製品と連携して、さまざまなところで自動化・最適化を図り、お客様のビジネスに貢献できる事例をどんどん増やしていくことが重要だと考えています。DevNet認定もこれまでのCCNA・CCNP・CCIE認定と同様にスタンダードにしていけるよう、今後もいろいろな取り組みを進めていく予定です。

[3]: 【参考】Cisco Japanブログ「DevNetアイデアソン&ハッカソン 2020 東京 開催しました!」前篇後篇

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著者プロフィール

  • 野本 纏花(ノモト マドカ)

    フリーライター。IT系企業のマーケティング担当を経て2010年8月からMarkeZine(翔泳社)にてライター業を開始。2011年1月からWriting&Marketing Company 518Lab(コトバラボ)として独立。共著に『ひとつ上のFacebookマネジメント術~情報収集・人脈づくり・セルフブランディングにFacebookを活用しよう』がある。

  • 市古 明典(HRzine編集長)(イチゴ アキノリ)

    1972年愛知県生まれ。宝飾店の売り子、辞書専門編集プロダクションの編集者を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集に参加。その後、2017年7月にエンジニアの人事をテーマとする「IT人材ラボ」を立ち上げ。2020年8月に人事全領域にテーマを広げた「HRzine」をスタートさせた。

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2020/09/14 06:00 /article/detail/2436
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