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ザ・プラント社長に聞く、多国籍メンバーが心地よく働ける環境づくり

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2020/12/22 10:00

 ほどなく少子高齢化社会を迎え、人材不足が懸念される日本。先が見えない時代といわれる中で競争力を高めるためには、多様な価値観を持つ人材の連携が重要とされる。そうした攻守の観点で組織づくりを考えたとき、多彩な国籍・文化を持つ人同士の協力・連携は大きな課題だ。そこで、約50名の多国籍人材が日・中・豪のオフィスで活躍するザ・プラント株式会社の創業者・代表取締役 アナトール・ヴァリン氏に、多国籍組織の運営の秘訣、外国籍の人材が日本で働く上で必要なサポートなどについて伺った。

グローバルな市場から能力・人柄で優れた人材を採用

――まずはザ・プラント社の事業について、そしてヴァリンさんが日本で起業するに至った経緯を聞かせてください。

 ザ・プラントの創業は2005年で、独自のECプラットフォーム、CMS、その他商取引関連のアプリケーションのカスタマイズ開発を行っています。システムの開発・提供だけでなく、運用やコンサルティングも担っており、顧客企業の事業に伴走し、ビジネス課題の解決に寄与することをミッションとしています。

 当社は私にとって2つ目の会社です。1つ目の会社は、名古屋で大学講師をしているときに立ち上げました。日本にいる外国人向けの情報サイトを運営し、私は開発やシステムの運用管理などを担当していたのですが、ユーザーが増えたこともあり、教職を辞して注力することにしました。ただ、だんだんと自分のドメインであるプログラミングに特化した事業をやりたくなったので、1社目を退いてザ・プラントを起業したというわけです。

アナトール・ヴァリン氏
アナトール・ヴァリン(Anatole Varin)氏
ザ・プラント株式会社 代表取締役
1968年米国ニューヨーク州生まれ。1997年に来日。名古屋大学、中京大学などで教鞭を執った後ITビジネスの世界へ。2005年にザ・プラントを創業。日本食(特に焼き鳥)が大好き。日本の好きな街は山梨県の笛吹市で、桃やブドウ狩りなど山梨の自然と夏の花火などを楽しむ。ポートランド州立大学修士課程、愛知大学修士課程修了。

――現在、どんな方が働いていらっしゃるのですか。

 東京本社に勤務する14名の中で、日本国籍のスタッフは4名です。そのうち1名は外国で育った帰国子女、1名はインターナショナルスクールでさまざまな国籍の子どもたちと一緒に修業、残り2名のみが日本で日本の教育を受けて育ちました。ほか10名は、米国、タイ、韓国、中国、オーストラリアの出身者です。ちなみに、私は米国人です。さらに、中国オフィスに中国人スタッフが35名在籍し、オーストラリアに1名常駐しています。

 意図的に外国籍の人を雇おうとしたわけでなく、私のネットワークに日本にいる外国人が多かっただけだと思います。1人目は1社目の会社から来てもらいました。他の人についても、私が直接知っていた人もいれば、知人に紹介してもらった人もいます。中国オフィスの責任者についてはLinkedInを通じてですし、中国人スタッフの大学時代のつながりから、中国・清華大学などから新卒で採用したこともあります。

 なお、採用にあたっては国籍を一切意識したことはなく、あくまでスキルや人柄にフォーカスして決めています。設立から15年が経ちますが、じっくりと時間をかけて人を増やしてきたこともあって、ミスマッチはほぼなかったですね。

 そして、日本企業では珍しいことかもしれませんが、再雇用者も多くいます。当社に務めた後、「もっと勉強したくなったので学校に戻りたい」「友人とスタートアップに挑戦することになった」と、さまざまな理由から退社したものの、再び戻ってくるケースですね。これまで8名くらいが、そうした再雇用者なのですが、全体で約50名と考えればかなり割合は高いほうなのではないでしょうか。戻ってくるのは、会社の居心地がいいからだと自負しています。

――多国籍組織となって、メリットを実感される場面などはありますか。

 まず1つ目はインターナショナルに人材を集められることでしょうか。日本でも優秀なエンジニアは争奪戦です。しかし、国籍を問わなければ、より多くの候補者の中から優秀な人を選ぶことができます。そして2つ目は、ワールドワイドな顧客への対応がしやすいことです。当社の顧客には多国籍企業や海外取引をするインターナショナルな活動をしている企業が多く、私どももさまざまな国籍の関係者と連携することが欠かせないのですが、そうした場合にもコミュニケーションに困りません。また、メンバーそれぞれが多様な価値観や生活習慣を持っているので、アイデアや視点が多様であることも事業に生かされていると思います。

日本と各国の文化・習慣を融合し、組織のものとする方法

取材当日に出社していたザ・プラントのみなさん。エプロンの「職人気質」も同社の文化の一つという
取材当日に出社していたザ・プラントのみなさん。エプロンの「職人気質」も同社の文化の一つという

――外国籍の人が日本で働くということにおいて、障壁に感じられることはありませんか。

 もちろんまったくないと言ったら嘘になります。東京本社で仕事をする外国人のうち、何人かは当社の前にも日本での就業経験があり、日本企業の習慣や文化などとの軋轢に悩んだ経験がそれぞれありました。しかし、それを乗り越えてきた人たちなので、当社の採用の時点でほぼ問題はありませんでした。

 一方で、日本に来るのもパスポートを取得するのも初めてだった中国人スタッフや、オーストラリアで採用が決定してから初めて来日することになったオーストラリア人スタッフもいました。彼らにはできる限りの細やかなサポートを行いました。それがスムーズにできたのも、私も含め日本での就業経験のある外国人メンバーは、仕事と生活両面での文化的軋轢を乗り越えるにはどう対応すべきか、分かっているからです。まず、大切なのは日本で暮らすことに対する期待値をすり合わせておくことですね。期待より高くても低くてもギャップを感じると後々のトラブルになりがちです。

 具体的には、電話やSlack、Zoomなどで事前に日本での生活についてしっかりと説明し、具体的なイメージを持ってもらいました。その後は、パスポートの取得に始まり、空港への送迎、仕事面では慣れるまでハンズオンで伴走し、生活面では社宅や家財道具の準備、役所の手続き、食事やゴミの捨て方まで一切をサポートします。そういえば、当初一緒に仕事をする中で、顧客先にテイクアウトコーヒーを持ち込もうとしたのを注意したこともありましたね(笑)。そんなふうに、かつて日本で失敗したり苦労したりしたメンバーが、経験・知見を生かして対応・アドバイスするので、日本に慣れない人でも安心して日本での業務・生活に馴染むことができます。

――日本式に溶け込むということでしょうか。

 いえいえ、すべて日本式に迎合するというわけではありません。「日本では一般的にはこうである」という情報は提供しますが、米国人である私が代表であることもあり、日本式はもちろん、米国式も強要することはありません。たとえば、多くの日本企業の就業規則では休暇のとり方や就業時間などについて、かなり厳しく決められていますが、ザ・プラントではかなり自由度が高いものになっています。そこについては、特に日本企業を窮屈に感じていた人からは感謝されているかもしれません。

 これだけ国籍が違うとメンバー一人ひとりの“常識”が異なるので、お互い違和感があることについては直接話し合い、意見を共有し、できるだけ多くの人が納得できる形で解決するようにしています。たとえば中国では、昼食後に「昼寝」をするのは一般的とされているそうですが、日本や米国では怠けているとみなされがちです。しかし、中国人スタッフ曰く、「短時間の昼寝をすると仕事の効率も上がる」というのです。そこで、社内に昼寝ができるようなカウチのある部屋を用意し、したい人はできるようにしました。もちろん、ルールではなく強制もしません。新しく人が来るたびに、たぶん新しい価値観や考え方が社内に取り込まれ、それがザ・プラントの組織文化となっているように感じます。

自由度を上げながら、組織としての推進力を高めるために

温和で誠実、メンバー想いという印象のヴァリン氏。同氏のキャラクターがメンバーをまとめ、生き生きと働ける環境をつくる源泉になっているのだろう
温和で誠実、メンバー想いという印象のヴァリン氏。同氏のキャラクターがメンバーをまとめ、生き生きと働ける環境をつくる源泉になっているのだろう

――多国籍の人がそれぞれの文化や習慣の違いを受け入れ、気持ちよく協力していくためにはどうしたらいいのでしょうか。

 ベースとしては、人の文化や習慣、価値観をリスペクトすることであり、実際の行動としては、やはりコミュニケーションが大切で、お互いを理解しようとしっかりと話し合うことだと思います。もう、こればかりはすごく“当たり前”のことだと思うのですが、実際そうなので(笑)。そして、そのコミュニケーションで大切なのは、「文化だから」などと表層的に流して理解させたつもりになるのではなく、合理的な理由や背景なども含めて、相手にも理解できるように丁寧に伝えることです。

 特に習慣には、理由があるものとないものとがありますよね。たとえば、トイレで使用した紙をくずかごに入れる国もあれば、水に流す国もあります。「文化だ」といってしまえばそれまでですが、下水道や浄化施設の状況がその背景にあるとしたら、それを伝えれば納得度は高まります。

――確かに“常識だから”で押し通すなら、相互理解など夢のまた夢ですね。特に日本人は同一の文化・コミュニティで生きていると思いがちで、悪意なく“常識”を押し付ける傾向がありそうです。

 おそらく、当社で丁寧なコミュニケーションができているのは、先ほども少し話しましたが、私も含めてメンバーの多くが“アウトサイダー”としての経験をしているからではないかと思っています。誰もが自分の常識や価値観とは異なる環境に置かれれば、不安に思い、時に頑なになるもの。そんな経験があって、少しずつ周囲を理解していったからこそ、ギャップのある環境に来ようという人を手厚くサポートしようと思うのではないでしょうか。その意味で、「押し付けがちな」人は、一度自らを“アウェイな環境”においてみるとよいかもしれませんね(笑)。

 ただ、相互に理解しようと努力することの重要性は、外国人に対してだけではないと思うのですよ。先ほどお話ししたように、学校に戻りたい、スタートアップに挑戦したいというような個人的な事情も、多くの場合、価値観や考え方と紐付いています。それをわがままとして拒絶したら、どんどん一人ひとりの自由度も低くなります。必然的にダイバシティも失われ、組織の活力はダウンすることでしょう。それはすごくもったいないことではないでしょうか。

――メンバーの自由度を保つことと組織としての統合性を両立させるにはどうしたらいいのでしょうか。

 確かに企業組織において、それぞれが勝手なことをしていては、事業は成り立ちません。それぞれが目的を理解し、目標に向かって努力することで事業的な成功が得られると思います。そうなると、やはり目的・目標の共有と評価が重要ポイントになるでしょう。

 事業としてのビジョンや目的、目標を提示しつつも、そこに到達するための方法については各自に任せるというのが望ましいと考えています。日本企業に多い、残業も含めて「机に張り付いている時間」で評価するのではなく、どんな方法であろうと結果で評価するという考え方です。マネージャーとしてはプロセスも管理したくなりがちですが、そこはスタッフを信頼して任せるほうがよいでしょう。ただし放任することなく、必要に応じて週次・月次で進捗を把握し、困っていることや悩んでいることなどがあれば、解決に向けてサポートすることも大切です。

 これまでビジョンや目的の伝達や評価まで、私一人で行ってきましたが、近年メンバーが増えて目が届かなくなってきたので、メンバーからの助言もあって目標管理手法に「OKR(Objectives and Key Results)」を導入しました。人数が増えてのダイバシティ経営についても、学びながら試行錯誤していきたいと思います。

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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

  • OGURA(オグラ)

    フリーランスフォトグラファー

  • 市古 明典(HRzine編集長)(イチゴ アキノリ)

    1972年愛知県生まれ。宝飾店の売り子、辞書専門編集プロダクションの編集者を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集に参加。その後、2017年7月にエンジニアの人事をテーマとする「IT人材ラボ」を立ち上げ。2020年8月に人事全領域にテーマを広げた「HRzine」をスタートさせた。

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2020/12/22 10:00 /article/detail/2727
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