日本パブリックアフェアーズ協会理事である岩本隆氏は、政策提言レポート「持続的な企業価値向上と人材戦略に関する一考察~従業員エンゲージメントの企業経営への活用とその推進策~」を発表した。
日本は21世紀初頭以降、人口減少社会へ突入し、それに伴う企業の人材不足や経営難は深刻な課題である。日本政府は対策として2018年6月に成立した「働き方関連法」を中心とする働き方改革を推進し、多様な働き方を選択できる社会の実現を目指している。企業にとっては、限られた人的リソースをいかに採用し、配置し、教育し、マネジメントしていくのか、経営戦略の中での人材戦略の位置づけがますます高まってきている。
人材戦略を取り巻く世界的な潮流としては、2011年にISO(国際標準化機構)の中にHRマネジメントのテクニカルコミッティであるISO/TC 260(Human resource management)が創設され、さらに2018年12月にはISO 30414(ヒューマンキャピタルレポーティングのガイドライン)も出版され、世界中で高い注目を浴びている。
また、欧州では数年前から上場企業に対してHR情報のレポートが義務化されているが、ISO 30414の出版を受けて、米国でも2020年11月9日からHR情報のレポートが上場企業に対して義務化された。日本では、2020年9月30日に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」において、従業員や投資家にHR情報を積極的に発信し、対話を促進することの重要性が示されている。
同稿では、このように重要性を増す人材戦略の中でも重要ファクターの一つである「従業員エンゲージメント」に着目し、その企業経営への活用の方法や利点について好事例を交えて取り上げ、最後に中小企業、大企業それぞれに対し、従業員エンゲージメント活用を促進するための政策を提言する。
従業員エンゲージメントの企業経営への活用
従業員エンゲージメントは「婚約」の概念に近く、企業と従業員との関係が上下ではなく対等の関係であり、同じベクトルを向いて成長していく度合いを示すための指標である。従業員エンゲージメントを企業経営に活用するための具体的なステップは主に5段階で示される。
- 経営方針を踏まえたエンゲージメントスコア測定指標の設定(目標設定)
- エンゲージメントサーベイ実施によるエンゲージメントスコア可視化(現状把握)
- エンゲージメントサーベイの結果分析と改善施策の検討(分析、プランニング)
- 改善施策の実行(アクション)
- 効果測定、経営層や投資家含め対話(レビュー)
従業員エンゲージメント活用のもたらす効果
従業員エンゲージメントの活用は企業経営にとって幅広い効果を有機的にもたらし、持続的な企業価値向上へ貢献するものである。
- 企業理念やビジョンの浸透による企業と従業員のベクトルの一致
- チームワーク、一体感の醸成
- 当事者意識や自発性の向上
- 多様な人材を公平性を担保しつつ包括できる組織作り
- イノベーションを生む風土作り
- 労働生産性向上
- 業績向上
- 離職率低下、採用力向上
日本企業における課題と従業員エンゲージメント活用の推進策
従業員規模や組織運営の課題が異なることを理由に中小企業、大企業のそれぞれに対する課題と解決するための具体的な推進策を提言する。