矢野経済研究所は、国内の人事・総務関連業務アウトソーシング市場を調査し、主要14分野サービスの動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。調査期間は2021年1月~3月。
同所では調査の結果について、以下のように述べている。
2019年度の人事・総務関連業務のアウトソーシング市場規模(主要14分野計)は、前年度比 4.1%増の8兆6542億円だった。当該年度は2020年初に発生したコロナ禍によるマイナス影響が懸念されたが、コロナ禍をきっかけに間接業務の外注化に踏み切る動きが見られるなど、むしろマーケット拡大を後押しする追い風となった格好である。
内訳を見ると、シェアードサービス市場(シェアードサービスセンター、学校法人業務アウトソーシング)が前年度比2.1%減の4165億円、人事業務アウトソーシング市場(給与計算アウトソーシング、勤怠管理ASPサービス、企業向け研修サービス、採用アウトソーシング(RPO)、アセスメントツール)が同3.2%増の9472億円、総務業務アウトソーシング市場(従業員支援プログラム(EAP)、健診・健康支援サービス、福利厚生アウトソーシング、オフィス向け従業員サービス)が同5.0%増の2777億円、人材関連業務アウトソーシング市場(人材派遣、人材紹介、再就職支援)が同4.5%増の7兆0128億円で、人材関連業務アウトソーシング市場が全体の約8割を占めている。
主要14分野別では、経済不安定期にサービス需要が拡大する「再就職支援市場」がプラス成長に転じたほか、シェアードサービスセンター、学校法人業務アウトソーシング、人材派遣の3分野を除いた11分野で市場規模が拡大した。特に、働き方改革を背景に時間管理を通じた生産性向上に欠かせない「勤怠管理ASPサービス市場」が前年度比20%超のプラス成長となるなど、市場全体の拡大を牽引した。
人事・総務関連業務を外部委託するユーザー企業を取り巻く環境を見ると、近年は好景気により業績が拡大し、資金的な余裕が生まれたこと、就労人口の減少により人材確保難が顕在化して貴重な社内人材をコア(中核)業務に配置する流れが生まれていること、業務に精通した熟練労働者の定年退職などから、間接業務である人事・総務系業務を外部委託する機運が高まり、アウトソーシング需要が拡大している状況にある。
特に大企業では、本業に対して経営資源を集中投下する一方で、間接業務の経費をよりいっそう圧縮する方向にあり、コスト削減を実現する手段としてアウトソーシングの活用に踏み切るところが増加している。特に、国を挙げての国策=働き方改革やDX推進がその動きに拍車をかけており、サービスの活用範囲も拡大、以前から行われてきた業務システムの外部活用に加えて、人を介した業務に関しても外部委託し、間接業務を丸投げする動きが活発化している状況にある。さらに、大企業をターゲットとしたサービス需要の取り込みが一巡したような分野では、導入アプローチの矛先が中堅・中小企業にシフトしており、サービス導入先であるユーザー企業の裾野が広がりを見せていることも、マーケット拡大の強力な追い風になっている。
人事・総務関連業務アウトソーシングは近年、サービスを導入しているユーザー企業のリピート需要や提供サービスの深耕、中堅・中小企業を中心としたアウトソーシングサービス未導入企業の需要拡大の流れを受けて、サービスの高付加価値化やサービスを一括提供するワンストップ化が進展、効率的な需要取り込みが進められており、市場のさらなる拡大が期待できる状況にある。特に、中堅・中小企業のサービス需要は、安価に利用できるクラウドサービスの登場により顕在化しており、市場を活性化する役割を果たしている。この流れは、今後も継続かつ広がっていく様相を呈していることから、市場拡大の牽引役として今後も大いに注目していく必要があるといえる。また、国が打ち出す施策はサービス需要を促す起爆剤として大きな役割を担っていくことが期待される。その意味において、目下の注目施策は「働き方改革」や「DX推進」であり、今後の動向が注目される。
事業者側に関しては、急速に進展している業務のICT化(HR Tech)への対応が大きな注目ポイントであり、業務のさらなる効率化に向けた提供サービスの見直し、いわゆる労働集約型から知識集約型への提供サービスの見直しとともに、社内業務の生産性向上へ向けた業務フローの抜本的な見直しの観点からロボット(仮想知的労働者=RPA)やAIを活用した定型業務のシステム化や業務そのものの平準化に対応したサービスが今後ますます注目されると考えられる。
上記のように、人事・総務関連業務アウトソーシング市場の外部環境はマーケットにプラスに働く要因が多い状況にあるが、一方で、コロナ禍による経済活動の失速が中期的に懸念され、2020年度は前年度に比べてマイナス成長に転じるマーケットが増える見通しにあることから、市場に与える影響などを今後も注意深く見守っていく必要がある。