藤野 貴教(ふじの たかのり)氏
株式会社文殊の知恵 代表取締役
株式会社働きごこち研究所 代表取締役
2007年、株式会社働きごこち研究所を設立。「働くって楽しい!」と感じられる働きごこちのよい組織づくりの支援を実践中。「今までにないクリエイティブなやり方」を提案する採用コンサルタントとしても活躍。グロービス経営大学院MBA(成績優秀修了者)。 2015年より「テクノロジーの進化と人間の働き方の進化」をメイン研究領域としている。日本のビジネスパーソンのテクノロジーリテラシーを高め、人工知能時代のビジネスリーダーを育てることを志として、全力で取り組んでいる。『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』(かんき出版)を上梓。
古川 将寛(ふるかわ まさひろ)氏
日本たばこ産業株式会社 たばこ事業企画室 人財マネジメントチーム
2011年入社。たばこ営業や商品開発、グループ経営管理や経営戦略策定サポートを担当した後、現在はたばこ事業全体の人事チームにて、主に組織開発、リーダー育成などを担当。本業の傍ら、JT社員の様々な挑戦を後押しする社内有志団体“O2”を立ち上げ、社内外の様々な人と人をつなぎながら、個人の挑戦を組織知に還元していくお手伝いを実践中。
本記事は、2021年2月25日に開催されたイベント「HRzine Day 2021 Winter」でのセッション「キレイゴトでは高まらない! JTがやり抜くエンゲージメント向上の実践事例」をレポートするものです。
いま従業員に問うべきは「どうすればよいか」ではなく「何をしたいか」
株式会社文殊の知恵 代表取締役、株式会社働きごこち研究所 代表取締役であり、外部パートナーとしてJTを支援している藤野貴教氏は、2025年に向けた世の中のトレンドとして、「業界の壁の崩壊」「体験が軸になる」「データを制するものが未来を制す」の3つがあり、これらについて深く知れば知るほど、「自分の会社は大丈夫なのだろうか」と不安を覚えると語る。
これまで、従業員のエクスペリエンスを高めるEX(Employee Experience)の話と、顧客に良い体験を提供するCS(Customer Satisfaction)の話は、切り離して考えられてきた。しかし、藤野氏は「EXとCSを分けて考える時代は終わった」と強調する。
「HRにとって従業員も顧客も同じユーザーであり、従業員に良い体験を提供できていないのに、顧客に良い体験を届けられるはずがない」(藤野氏)
また2020年、リモートワークが広まったことで、「漠としていた不安」が現実味を帯び、社員の自己効力感の低下が起きている、と藤野氏は指摘。その背景には、リーマンショックの頃に比べ、ニュースメディアやSNSの普及によって、世界の変化を知ることが容易になったこと、さらに「このままではダメだ」と思いながらも「自分にできることはないのでは?」と不安になってしまうことなどがあるという。
加えて、突如巻き起こったコロナ禍による、中期経営計画の破綻だ。前提条件が変わってしまったにもかかわらず、それでも計画通りに推し進めようとすることで、現場では中長期の視点が薄れ、視野狭窄になってしまっている現状があるのだ。
こうしたことから、ピンチが自分事になった従業員たちは、これまでのぬるま湯から脱出すべく、「自分は何がしたいのか?」「自分が大事にしていることは何か?」といった自身の本質的な意思(=WILL)を問い始めた。それと同時に、これまで周りに無関心だったところから「あなたはどう思っているの?」と他者への興味も湧き始めている。
「そんな今だからこそ、HRに求められているのは、未来に向けた社員のWILLを主役にすることであり、キレイゴトの正解探しをやめるという意思を持つことだ。人事は事務局根性で『みなさん変わってください』というスタンスになりがちだが、まずは自分たち自信が変わる姿を見せることが、何よりも大事。『隗より始めよ』で、自分たちが起点になって従業員と一緒に動いていく気持ちを持ちましょう」(藤野氏)