OpenStack導入により、迅速かつ標準準拠のIT基盤を実現
基調講演の次に登壇したのは、ビットアイル・エクイニクス株式会社(現エクイニクス・ジャパン株式会社) ビットアイル総合研究所所長 長谷川章博氏。OpenStackをどのように活用すればよいか、その指針を示した。
OpenStackは、コントローラノードとコンピュートノードに加え、ストレージ、ネットワーク、インターフェイス、認証機能など複数のコンポーネントを共通APIで制御する。そのため、選定するストレージやネットワークなどが異なれば、出来上がるシステムの様相もまったく異なる。だから、OpenStackの導入で重要なのは「OpenStackを使って何を構築するのか」を決めることだと長谷川氏は言う。あとはシステムを構成する部品をどう選ぶかだ。ただし、OpenStackのコア部分はグローバルに検討・開発が行われるが、個々の実装についてはローカル、すなわちそれぞれの企業内で熟成していくことになる。
では、何を目的としてOpenStackの導入を考えているのか。昨年7月に開催された「OpenStack Days Tokyo 2016」では、来場者にOpenStack導入に最も期待する効果についてアンケートが実施された。その結果、第1位は「ビジネスの変化に対する即応性」、第2位は「標準化」、第3位は「コスト削減」だったという。
クラウドの魅力は、必要なコンピューティングリソースをすばやく調達し、新しいサービスを迅速に提供できるところにある。「ビジネスの変化に対する即応性」が第1位になったのは「実現にはOpenStackのような基盤が必要となる」(長谷川氏)からだろう。とはいえ、特定ベンダーのOpenStack製品にロックインされてしまうのは、IT戦略を中長期的に見ると大きなリスクだ。
第2位に「標準化」がランクインしたことについて長谷川氏は、「OpenStack準拠のプラットフォームであれば、共通APIを使ったサービスやツールはディストリビューションや事業者が異なってもそのまま利用できる」(長谷川氏)ことを挙げた。また、「コスト削減」が第3位になったことについては「OSSであるがゆえにコスト削減への期待もあるが、スピードとスタンダードが優先されるということ」(長谷川氏)だと分析した。
最近では、非IT企業がOpenStackを活用する事例が増えていると長谷川氏は明かす。「Software is eating the world」という言葉が示すように、今後は業種や業態にかかわらず、ビジネスを伸ばしていくにはソフトウェアを活用していかなければならない。その際に求められるのが迅速性だ。OpenStackについても、導入するかどうかではなく、導入後どのように活用していくかに関心が移っている。CI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリー)をうまく利用して開発・リリース作業の自動化を図り、効率的に運用していくためにOpenStackが必要となる。
OpenStackの導入自体はそれほど難しくない。問題は、他のノードを制御するコントローラノードをいかに効率的に運用していくかだ。セキュリティ上の理由からOpenStackでプライベートクラウドを構築する企業が多いが、OpenStackをサービスとして利用するホステッドプライベートという選択肢もある。パブリッククラウドのようにハードウェアをホスティングするが、リソースを占有でき、コントローラノードの運用も事業者に任せられるという形態だ。
長谷川氏はOpenStack運用の事例として、CI/CDの運用を自動化するツールを自社開発しているeBay、KubernetesやDockerなどのコンテナを使って継続的な開発、迅速なデプロイを実現しているYahoo! Japanとともに、非IT企業によるOpenStack導入事例としてJFEスチール、キリンを紹介。今後求められる迅速なIT基盤を実現するOpenStack導入をぜひ試してほしいと締めくくった。
安価な機器で小規模から始めるOpenStack導入と人材育成
株式会社アドックインターナショナル フィールドマネージャ 川畠乾吾氏は、同社におけるOpenStackの活用事例と人材育成について紹介した。
同社は、システムやインフラのOpenStack化、動作検証など、OpenStackに関わる事業を数多く行っている。「業務で扱うからにはOpenStackの技術を習得しなければならないと、エンジニア育成のために勉強会を始めた」(川畠氏)ことがOpenStack活用のきっかけになった。
勉強会を始めた当時、OpenStackに関するドキュメントのほとんどが英語であった。そこで同社は、ドキュメントを日本語に翻訳して公開する活動を開始。現在も継続中で、コミュニティへの貢献度の翻訳部門で上位を占めている。また、OpenStackの技術情報を発信するエンジニアブログも公開中だ。こうした活動を通じて、「OpenStackを利用するユーザーを支援し、コミュニティを活性化させることで、OpenStackを使いやすいものにしていきたいと当社では考えている」と川畠氏はその意気込みを示した。
また、同社では学習・検証用にOpenStackを使ってプライベートクラウドを構築。このとき、OpenStack環境を社内インフラから独立させることで、柔軟な設計が可能になった。さらに、テスト環境利用が目的で、停止しても業務に影響がないことから高可用性を必要としなかったため、安価な機器でのスモールスタートが実現し、運用コストを抑えることができたことも明かした。
そのほか、OpenStack環境の構築で想定外の効果も得られたという。
1つは、OpenStack活用のイノベーションが社内で生まれたこと。同社はシステム検証事業を行っているが、当然ながら検証対象システムの構成や設定はそれぞれ異なる。システムごとに環境を構築し、テストを実施するには時間がかかるが、OpenStackeを利用すればその時間を短縮できる。たとえば、ネットワークの検証では、スループットの試験に対して、ネットワーク機器のベンダー、仮想化ソフトウェアのバージョン、割り当てるリソースなどの条件の組み合わせによって試験項目が膨大な数になる。そこで、稼働する仮想化ソフトウェアのバージョンなど条件が異なるOSのイメージを作成し、OpenStack上で展開するなどの方法により、異なるテスト環境を短時間で構築できるようにした。実際に、2700種類の環境での試験を40時間でこなしたという実績を上げている。
もう1つの効果は、OSSのチャレンジ思考が高くなったことだ。もはやどのような企業でもOSSの存在を無視することはできない。そういった状況では、OpenStackを人材育成に活用することが非常に有効である。
まず、OpenStackを実際に使い、どのようにクラウドを構築し、管理していくかを学ばせることで、OpenStackエンジニアの育成が可能だ。作業過程で問題が発生したときにはトラブルシューティングを体験できるし、問題発生前のイメージを使えばすぐに元の状態に戻すことができる。また、他のOSSを学習する際にもOpenStackを活用可能だ。そのOSSを導入したOSのイメージを準備しておけば、OpenStack上で人数分の仮想サーバを稼働し、そこに展開するだけで学習環境を用意できる。学習対象のOSSがたくさんあっても、それぞれのイメージを準備しておけばよい。
人材育成では資格取得も有効である。OPCELは、ディストリビューションへの依存がなく、クラウドおよびOpenStackに関する幅広い知識を体系立てて習得できる資格である。自身も資格取得者である川畠氏は、OpenStackエンジニア育成の一環としてOPCEL取得を推奨した。