三ッ輪ホールディングスの人材マネジメントの定義
――自己紹介、会社の紹介をお願いします。
尾日向竹信氏(以下、尾日向) 三ッ輪ホールディングスグループの社長を務めている尾日向と申します。私は大学院まで進んだ後、野村総合研究所で2年勤務し、エネルギー業界に入りました。まずは長野県の同業者で修行として2年ほど経験させていただき、29歳のときに正式に三ッ輪産業に入社しました。3代目として、当グループ全体を統括する現在の立場に就いたのは今から6年前の2015年です。
当グループは、三ッ輪産業として1940年に煉炭、豆炭、石炭などの製造販売業で神奈川の地で創業しました。現在は、事業転換した三ッ輪産業で関東一円にてLPガスの供給販売を、また2016年の電力自由化に際しては新会社にて電力の供給販売に全国にて参入するなど、エネルギー全般の供給販売事業を展開しています。加えて、近年ではエネルギー供給にとどまらず、「防災」「省エネ」「環境価値」などに関するソリューションの開発と社会実装にも各地で取り組んでいます。こうした時代ごとに社会に求められる「価値」を提供するグループとしての事業ドメインの転換と拡大を加速させていくため、2019年にホールディングス化を行いました。
塩﨑智氏(以下、塩﨑) 私は三ッ輪ホールディングスに入社して4年目になります。以前は別会社で研修営業をしていました。現在はグループ全体の教育専門担当として従事しています。
尾日向 三ッ輪ホールディングスは単なる持ち株会社ではなく、各事業会社に経理、総務、人事、広報などのコーポレート機能を横軸で提供している点が特徴です。その他に事業開発も担っており、事業戦略を考える部分からハンズオンで各会社と協業しています。
――貴社では「人材マネジメント」をどう定義づけていますか?
尾日向 人材マネジメントは一般的に、「企業の目標達成のために人材を有効活用する」といった解釈がなされると思います。当社では、この定義に加えて「人材マネジメントを行うには、人材そのものが輝かなければならない」と考えています。人材の有効活用をする前提条件として、社員の「働く場とプライベートの環境が公私ともに満たされている状態」が人材マネジメントをする上で必須だと考えています。
塩﨑 当社は「新しい価値の創造」の実現手段として、「ヒトのちから」×「テクノロジーのちから」を掲げています。「ヒトのちから」というのは、多様な考え方の人材を採用して、さまざまな価値観をぶつけ合うことで素早く、多く、事業の種を創出することを期待しています。一方、「テクノロジーのちから」は、人力で行うと時間的コストがかかる部分をITに置き換え、省力化することを意味しています。
人材マネジメントにおいても、今まで経験や勘に頼って行ってきた採用や人材教育などを、データドリブンな組織運営に切り替えるよう試みています。例えば、採用においては、人事アセスメントツールを用いてデータを起点に人材を評価する。教育においては、組織内の誰と誰がコミュニケーションをとれているかを、データを用いて可視化するなどの取り組みを始めています。
――どのような事業課題や経緯で、「ヒトのちから」×「テクノロジーのちから」をテーマに掲げたのでしょうか。
尾日向 「ヒトのちから」×「テクノロジーのちから」という2軸を明確にしたのは、2020年10月、ちょうど創立80周年の節目のときでした。
背景には、エネルギー業界は差別化が非常に難しいことがあります。エネルギーそのものの質はどの会社が提供しても変わりません。また、安定供給は当たり前と考えられる商品のため、ただ提供するだけで価値を感じてもらえるものでもありません。
人口増加とともに市場が拡大している時代には、差別化にこだわる必要はありませんでしたが、昨今の市場は飽和しています。今後は省エネの流れもあり、市場がシュリンクし続ける中で、いかに新しい価値を生んでいくかという視点が重要になります。
市場が求める新たな価値を生み出さなくてはならない。これが我々の直面した課題でした。その実現手段を考えたときに、「ヒトのちから」×「テクノロジーのちから」というテーマを中期経営計画で掲げるに至りました。
――市場が求める新たな価値を生み出すために、テクノロジーのちからはなぜ必要だと?
尾日向 エネルギーとともに新たなサービスを合わせ売りしようとしても、そう簡単に売れるものは出てきません。新たなものを考えて提供するためには、それを支える仕組み(土台)から作っていく必要がある。テクノロジーによる事業効率化やデータ活用による組織の仕組み化は、そのために欠かせないものと感じました。
ただし、そのためには社内に高度専門人材を置くことが必須だと考えていました。もちろん、そうした人材の確保や教育は、決して容易なことではありません。しかし、テクノロジーを活用した「新しい仕組みの導入効果の最大化」「市場や顧客との対話に基づく改修の繰り返しによる新商品の開発」の実現から見れば、結果的に外注に頼りきりにならない体制構築が合理的だと判断したのです。