年齢に関係なく社会に価値を発揮する場を提供
──まず、ライフシフトプラットフォーム(以下、LSP)について教えてください。
山口裕二氏(以下、山口) 経験豊富なミドル社員(40代・50代)が早期退職という形で電通を辞めて「個人事業主」になり、電通が出資するニューホライズンコレクティブ合同会社(以下、NH)と、改めて業務委託契約を結ぶというものです。固定報酬は段階的に減っていくのですが、個人やチームを組んで新たな仕事に挑戦し、10年で完全に自立するという仕組みになっています。
──LSPとNHの立ち上げの経緯を伺えますか。
野澤友宏氏(以下、野澤) 電通でも2016年ころから労働環境や働き方について改革を進めるようになり、同年11月には労働環境改革本部を設けて、さらに組織的な取り組みを深めていきました。その中で有志が集まって、年齢にとらわれず、社会において長く価値を発揮できる働き方について考える中で、労働環境改革本部長だった山口が「人生100年時代の電通人の働き方」という素案を作成したのが2017年でした。私はその翌年に合流し、LSPの制度策定やNHの設立を進めてきました。
山口 この活動は、有志が集まってボトムアップで始めたのですが、事業部門だけでなく人事や総務の関連部門、役員など経営層にも話を聞く中で、それぞれ課題を持っていたことが明らかになりました。特に40代・50代で豊富な経験やスキルを持ちながらも、会社が求める仕事とのミスマッチがあり、会社の構造的な問題で価値を発揮できない人が増えていることは共通課題でした。
これは、社内だけでなく、社会にとっても大きな損失であることは明らかです。年齢に関係なく価値発揮をしていくことがもっと自由に行われてよいですし、学び直しや新たな価値発揮の場を提供するのも、会社の役割としてあってよいはず。それによって、個人と会社と社会の間に新しいサイクルが生まれてきます。さらには就職、就社ときて、定年で会社人生が終わった後の“就社会”をサポートすることで、社会に大きな価値を提供できると考えたわけです。
──LSPでは、あえて電通ではなくNHとの業務委託契約とした理由についてお聞かせください。
野澤 もちろん、LSPで議論する中で、電通の社内制度とする検討も行ったのですが、今の枠組みの中では定年制度はあるし、雇用延長も65歳までなど規定も多い。しかも、その対象は社員に限られるという制約がどうしても残りました。しかし、それでは人生100年時代に対応していくことは難しく、制度を変更するにも時間がかかる。それならば、現制度の及ばない社外に組織を作ることで、電通の支援も受けながらも自由に模索でき、新たな働き方を作れるのではないかと考えたわけです。
山口 設立時には230人が手を挙げ、約1年間やってきたわけですが、会社員でもなく、ただの個人でもなく、その中間にあって緩やかな連帯感というか、つながりの可能性があるように感じています。というのも、会社を出てしまった人に対して、会社が何かをするということは日本では皆無ですよね。でも、LSPでは会社を辞めた後も最大10年間は関わり続け、サポートしてくれる。そこに組織との新しい関係性があると感じます。