【①スキルの可視化】動的ポートフォリオとして改定していく
まず「①スキルの可視化」については、IT事業者では資格や認定資格などで保有者を数え、情報として持つ企業が多いものの、それ以外の会社についてはほとんど進んでいない。昨今になって、DX人材の取り組みの中でオープンバッチなどを使いながら数値化を図る企業も登場しているが、「DX白書2021」での調査では4割程度にとどまる。つまり、「誰にどのくらいの教育を施せばいいのか」が把握できておらず、育成計画が立てられない状況にある。後々「動的ポートフォリオ」として人材育成の投資対効果を把握し、組織としてのスキルレベルなどをモニタリングする必要があるが、もともとのスタートが把握できていないという状況だ。
成瀬氏は「育成人数をKPIとして目標設定するのではなく、主体的な学びの促進と人材発掘を可視化の目的とするのが妥当。育成が目的ではない。DXにおける人材戦略としては、デジタル人材として育成した人たちがトランスフォーメーションを実践に移し、成果を出し、可能性を切り開くことこそが大事。そのような人材が今どこにどれくらいるのかを把握し、新しいチャレンジをしてもらうのが組織的なアプローチになる」と語る。
そのためにも“客観的な”スキルを可視化・把握できていることが重要だ。たいていの企業ではいつも同じ人の名前が挙がる、同じ人が手を挙げてくるということが多く、一定の人にしか機会提供ができない。新たなポテンシャルも含めて発掘するには、客観的なスキルの把握が必要になる。そこで、人材育成の場を利用しながら、スキルの可視化や把握を行い、これを人材戦略につなげていくというわけだ。
パーソルプロセス&テクノロジーでも、エクサウィザーズが提供する「exaBase DXアセスメント」を活用して、人材のスキル判定を行っているという。このアセスメントには、デジタルのリテラシーに加えて「イノベーション」という観点があり、コアスキルだけでなくDXの“素養”についても把握できる。具体的には、縦軸にイノベーティブスキル、横軸にデジタルスキルとしてマッピングし、ポートフォリオとして提示する。同社の場合、DX推進が可能なロールモデルとなる人材が一定数おり、そのすぐ下にポテンシャルの高い次期デジタル変革人材の候補が位置している。そのような人材を引き上げるためにどのような教育機会を設けるかを考え、ターゲットと育成内容を検討する材料としているという。
他にも、デジタルスキルとデジタル素養といった軸でマッピングできるほか、デジタルマーケティングやソフトウェアエンジニアリング、プロダクトマネジメント、AIデータの素養など、様々な切り口でDX人材となる人材の探索や把握が可能。自組織の強みや課題を把握しながら、育成の方向性などを分析できる。さらに、実施した施策や教育の効果についてアセスメントして改善を行ったり、個人の学びの促進や人材の発掘などにもつなげたりと、様々な効果が得られる。
成瀬氏は「人的資本経営でも『動的な人材ポートフォリオ』が重視されている。1度可視化しただけでなく、継続的な変化を促すことが重要であり、様々な挑戦や経験によって人がスキルが変化していく様子を把握する必要がある」と強調し、「ここ数年でスキル可視化においては様々なサービスが登場してくると思われる」と語った。