【②実践学習】関心・課題発見・実践の3ステップで取り組む
次に2つめのテーマである、実務を重視した「②実践学習」について、成瀬氏は自身が2017〜18年以前に取り組んだ「RPA領域の人材育成」の経験を踏まえて次のように語った。
「当時、RPAへの期待が大きく、一部の推進人材のみならず活用人材にも、環境が多少変わってもメンテナンスができるよう、しっかりと使い方を覚えてほしいということで研修を受けていただいた。しかし、残念ながら実務で実際に使われたのは感覚的に1〜2割程度。技術を修得しても実務で使える人は限られる。AIなども同様に、技術だけでは使える人材にはならない。そこで、DX人材育成について考えているのは、そもそも実務上で『いったい何をしたいのか』という話がまずあって、その実務上の『課題を解決するために学ぶ』という状況を作る必要があるのではないかと考えている」(成瀬氏)
確かに用途が分からぬまま、とりあえず勉強しようというのは定着が難しい。「何のために学ぶのか」を捉えて学習できる状況を作る必要がある。かつ学んだ後にもすぐに活用できる環境があることが望ましい。成瀬氏は、「特にデジタルの領域は自分で手を動かして作り、自分の実務の中に組み込む状況を作り出すことが重要。デジタル人材育成の中で、こうした『実践学習』をどうやって教育機会として組み込むのかを考えていく必要がある」と釘を刺す。
こうした実践学習を行う上でポイントになるのが、机上の空論ではなく、いわば「デザイン思考」的にしっかりとユーザーの存在を意識して取り組むことだという。さらに、いきなり完成形を目指すのではなく、小さくプロトタイピングから始めて実際に作りながら改善をするというアプローチが望ましい。さらには、実践の中で学ぶために、本番環境でできない業務の場合は、テストトライアルができるような環境を整える必要がある。
それでは、同社では実際にどのようなことが行われているのだろうか。「実践学習」の3つのステップについて成瀬氏が紹介した。
- 1)関心を持つ
- DXに関心を持ってもらうために、DXの基礎から取り組み方、事例などを紹介。自分の業務にDXがどのように関係あるのかを考える機会を作る。
- 2)課題を見つける
- 自分の業務にどのような課題があり、どんな技術を取り入れれば解決できるかを考える。業務範囲を越えて全社化が必要な場合もあるが、整理して取り組むようでは遅いと考え、現場でまずは考えることからスタートさせる。DX戦略を提示しても、現場からなかなか課題が上がってこないことが多い場合、現場担当者が課題設定をするためのトレーニングとして効果がある。ワークショップ形式で一緒に考えながら、プロジェクト化していくことも多い。
- 3)実践の中で学ぶ
- 技術を使ってどのように解決するか、伴走を受けながら、実際に技術を用いて業務にデジタルを組み込んでいく。1つめの事例として、RPAを用いた現場業務自動化の実践の取り組み、2つめにはノーコードツールを用いた顧客インターフェイスを作成するという事例が紹介された。いずれも、単に作り方の研修ではなく、ユーザーの体験をどう変えるべきか、ヒューマンセンターデザインやデザイン思考などを用いてどういうサービスを作っていくのか、どういったユーザー体験を作っていくのか、といったことを考えながら、実際にそのサービスのプロトタイプを作成するというもの。