人的資本の要は人そのものではなくスキル
そもそも人的資本とは何だろうか。「この言葉に忠実であれば、人的資本経営の本質を外さずに、良い取り組みができる」と語る民岡氏は、「人的資本の要は、人そのものが大事だというよりは、“従業員が保有する『知識、スキル、能力』が競争優位性の源泉になる”ということだ」と指摘する。
「企業は人なり」「人は財産だ」というのであれば、どれほど価値のある人材を抱えているのかを、B/S的な発想で(非財務情報としてではあるが)投資家をはじめとするステークホルダーに示すのが筋であろう。しかし、これまでは財務諸表のP/L上として人件費を示す程度でしか数値的に表すことができていなかった。
「繰り返しになるが、人的資本で大切なのは(広義の)スキル。人的資本開示の際には、ぜひここを忘れないでいただきたい」(民岡氏)

では、スキルをどう可視化すればよいのかといえば、データとHRテクノロジーを活用することである。Human Capital Managementという英語自体は10年以上前からあったが、これを理想論で終わらせずに実践するにあっては、勘や経験、そして主観的な好き嫌いによる意思決定を排除しなければならない。現代の人的資本経営とは、「HR関連データを効率的に集め、HRテクノロジーを活用して数値に基づいて『客観的に』人事の意思決定を行うこと」なのである。

民岡 良(たみおか りょう)氏
株式会社SP総研 代表取締役 人事ソリューション・エヴァンジェリスト
1996年慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本オラクル、SAPジャパン、日本アイ・ビー・エム、ウイングアーク1stを経て2021年5月に(株)SP総研 代表取締役に就任。現在は「持続可能な働き方」を追求するためのコンサルティングサービスを提供しており、「人的資本開示」(ISO 30414)に関する取り組みについても造詣が深い。日本企業の人事部におけるデータ活用ならびにジョブ定義、スキル定義を促進させるための啓蒙活動にも従事。
著書に『HRテクノロジーで人事が変わる』(共著、労務行政、2018年)、『経営戦略としての人的資本開示』『戦略的人的資本の開示』(共著、日本能率協会マネジメントセンター、2022年)、『現代の人事の最新課題』(共著、税務経理協会、2022年)などがある。
「ビジネスガイド」(日本法令)などへの寄稿、ならびに、労政時報セミナー、HR Summit、日経Human Capital、HRカンファレンスなど、登壇実績多数。