人的資本情報開示の3つのポイント
講演は人的資本の情報開示の背景から始まった。2018年12月に、国際標準化機構(ISO)により出版された人的資本情報開示のためのガイドライン。それが「ISO30414」である。
その後、2020年8月に米国の証券取引委員会が上場企業に対して、「ISO30414」に基づいた人的資本の情報開示の義務化を公表。それを皮切りに米国では人的資本の開示が始まった。
日本においても、2023年から始まる人的資本開示に向けて各企業の動きが活発化する中、現在国内では19項目(人材育成・多様性・健康安全・労働慣行)が開示例として出されている。
「グローバル基準である『ISO30414』と、現状の『国内開示』では開示項目・計算ルールが異なるため、会社が経営戦略に基づいてKPI開示をするかが鍵になりますね」(中村氏)
さらに中村氏は、人的資本の情報開示にあたって3つのポイントを挙げた。
①経営戦略に沿ったストーリー構築
「現状の良い点だけでなく、いまを正しく把握し、改善に向けたストーリーを構築することです。たとえば、日本では退職率が高くなることはネガティブに捉えられることが多いですが、現在レイオフ(一時解雇)が相次いでいる米国企業では、『事業の転換にとって必要なこと』だときちんと株主に説明しているため、ポジティブに受け取られています」(中村氏)
②ルールに則ったデータの把握
「米国での開示には『ISO30414』、国内では今後財務省より発表される開示ルールに則ってデータを把握し、発表していくことです。たとえば、今まで女性の管理職比率を出す際に、分母を総合職、分子を管理職といったように自社に都合よく計算しているケースが見受けられました。今後は、株主やステークホルダーが正当に評価できるようにルールに則ったデータの開示が必要です」(中村氏)
③経年(他社)比較による変化の開示
「自社の強みだけでなく、弱みや改善点が直近3年ほどでどのように変化をしているか開示をしましょう。データがない場合は、その旨を開示したうえで新たにデータを取得していくことが大事ですね」(中村氏)
人的資本情報の開示について各企業が模索する中、すでに人的資本経営に取り組んできたのが三井化学である。どのような取り組みが行われてきたのだろうか。