リスクを察知せよ
人の良いところは比較的見極めやすいが、悪いところは見極めにくい。経験のある面接官ならば、会って話したときに「この人は優秀そうだ!」と感じ取ることはできるだろう。一方で、優秀そうと思った人のリスク面を見極めるのは容易ではない。
採用に携わっていると、同じくらい優秀そうな人材に対し、あとは何かしらの優先順位を付けて判断するしかないという場面に遭遇する。そのとき、リスクの高い人材が分かっていれば、採用で失敗する確率を抑えられる。とくに「採用して⇒失敗して⇒脱落して⇒穴埋め」という悪いサイクルに入っていると感じている企業では、迷ったときに採用を見送るべきタイプを認識しておくことで、採用の質と効率の改善が見込めるはずだ。
リスクに着目するというのは、企業規模を問わず有効な視点である。大企業では採用人数が多いこともあり、ネガティブリスクチェックの視点が抜けたままであると、多くの困った社員の対応に手間取られる。また、中小企業にとっては採用した一人ひとりが与える影響が大企業よりも大きいため、より深刻な問題となるだろう。
私はコンサルティングファームの新卒採用責任者として、累計1万人の学生を面接してきた。その中で、当社の組織に定着して活躍する学生とそうではない学生の共通項が見えてきた。それを踏まえて本稿では、成功パターンではなく失敗パターンに着目し、当社基準ではあるが、採用を見送りたい学生の3つの特徴を解説していこうと思う。
採用を見送りたい学生の特徴①:自己認識能力が低い
自己認識には「内的自己認識」と「外的自己認識」がある。内的自己認識は「自分のことを自分がどう思うか」という認識のことで、具体的には「自分の価値観」「思考」「感情」「情熱」「願望」や、セルフイメージを形成する「短所」「長所」などを自分で認識できているかということである。一方、外的自己認識は「自分のことを他者がどう見ているか」という認識のことだ。自己認識能力が高い人は、このバランスがうまく取れている。
逆に、自己認識能力が低い人は認識と現実のギャップが大きく、自分で思っているようなパフォーマンスを発揮できないことが多い。具体的には自分にはどのような能力があり、何が目標なのかを把握できておらず、自分の目標の達成や成功につながらないような行動を選択してしまう傾向がある。
中でもとくに気をつけなければならないのは、周囲より自分自身の評価が高い人だ。仕事をもらったときに相手の期待値や評価が分からず、独りよがりな報連相をする。自分は仕事ができていると思い込んでおり、周りから見れば失敗であっても成功に塗り替えてしまう。他人の話に耳を貸さず、評価やフィードバックをもらっても受け入れないので改善が難しいうえ、矛先が会社などに向かう傾向がある。自分本位なので、チームで連携する責任のある仕事は任せにくい。人間関係も行き詰まっていくことが多い。
なお、この自己認識能力が低いというのは頭の良い人にも多く見られるので注意したい。
そのような学生を採用しないためには、面接でガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を尋ねる際、「自分の行動が周りにどういう影響を与えたか」という質問を加えてみるとよいだろう。該当する学生からは興味がないと分かる返事や、楽観的な答えが返ってくる。
ワークをいっしょに行ってみるのも効果的だ。インターンシップなどで、こちらの意図を汲んでアウトプットを出してくるかどうかを確かめる。気をつけなければならないのは、それっぽいフレームワークなどを使い、形だけのアウトプットを出してきたケースだ。顧客や上司、相手がどんなものを期待しているかを想像できず、それをフィードバックで指摘しても素直に受け入れられない場合、採用するべきではないだろう。