2023年の3月末決算から、上場企業の有価証券報告書における人的資本の情報開示が求められています。しかしながら、開示直前の現時点でも、人的資本経営における人材戦略や開示方針が不明確な企業が散見されます。本稿では、Biz/Zineの「“知覚”が変わる人的資本経営 第2回※」で田中弦氏(Unipos 代表取締役)と対論を行っている松井勇策氏(フォレストコンサルティング経営人事フォーラム 代表/情報経営イノベーション専門職大学 客員教授)が、「人的資本経営が分かりにくい真因」を明確に解き明かし、企業が向かうべき先を具体的に示します。この後編では、前回解説した「3つの視点」の主唱者を明らかにするとともに、3つの視点を統合することの重要性を説きます。
※前編「人的資本経営の『分かりにくさ』の原因とは?日本企業が陥る誤解と、海外の開示から紐解く課題ギャップ」と、後編「なぜ経営戦略と人材戦略の食い違いが起こるのか──新たに確立すべき『日本式』の人的資本経営とは?」が公開中。
本記事の前編はこちら。
「3つの視点」と人的資本経営の分かりにくさの理由(再び)
前回、人的資本経営が分かりにくい理由として、「①企業の価値評価とESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する視点」「②タレントマネジメントや海外の人事施策を重視する視点」「③国内の人事労務課題や制度構築・改善を重視する視点」という3つの視点が存在することを挙げました。

課題は、人的資本経営にとって重要なこれら3つの視点がそれぞれ提供する情報や知見を、どう統合するかです。それぞれの視点の強みや重要性を理解し、適切に統合することで、企業の人的資本経営がより効果的になり、組織全体の価値創造が大きく進みます。
3つの視点が、企業が人的資本経営に取り組むうえで重要な基盤を形成しているのは確かです。企業の価値評価とESGを重視する視点は、企業が社会に与える影響とその価値を評価するための視点を提供します。タレントマネジメントや海外の人事施策を重視する視点は、企業が従業員の能力に着目して育成制度を構築する場合の視点を提供します。国内の人事労務課題や制度構築・改善を重視する視点は、企業が雇用環境を整備するうえで根幹となる視点や、育成やダイバーシティ施策の根本となる組織課題を把握する視点を提供します。
また、3つの視点にはそれぞれ主唱者や専門家がいます。彼ら彼女らのキャラクター、立場、重んじていることを理解したうえで、それぞれの視点を尊重しつつ、1つの統一された視野に結び付けることにより、統合の方向性が明らかになります。
そして、それぞれの視点は企業の経営状況や人的資本経営に対する理解を深めることに寄与する一方、統合された視野は企業全体の経営戦略と人材戦略を進めるうえでの新たな視点を提供します。統合的な視野を持つことで、企業は経営戦略と人材戦略を一体的に捉え、価値創造とリスクマネジメントの両側面を考慮して戦略を決定できるようになります。
結論としては、人材版伊藤レポートや人的資本可視化指針にもいわれているような「経営戦略とつながった人材戦略を、価値創造とリスクマネジメントの両側面を考慮して決める」という方向性こそが、人的資本経営を推進するうえでの統合的な視野を持つことの最も中心となる軸であるとは思います。その詳細な内容についても考察していきます。
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松井 勇策(マツイ ユウサク)
産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の知見を融合した対...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

