※前編「人的資本経営の『分かりにくさ』の原因とは?日本企業が陥る誤解と、海外の開示から紐解く課題ギャップ」と、後編「なぜ経営戦略と人材戦略の食い違いが起こるのか──新たに確立すべき『日本式』の人的資本経営とは?」が公開中。
本記事の前編はこちら。
「3つの視点」と人的資本経営の分かりにくさの理由(再び)
前回、人的資本経営が分かりにくい理由として、「①企業の価値評価とESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する視点」「②タレントマネジメントや海外の人事施策を重視する視点」「③国内の人事労務課題や制度構築・改善を重視する視点」という3つの視点が存在することを挙げました。
課題は、人的資本経営にとって重要なこれら3つの視点がそれぞれ提供する情報や知見を、どう統合するかです。それぞれの視点の強みや重要性を理解し、適切に統合することで、企業の人的資本経営がより効果的になり、組織全体の価値創造が大きく進みます。
3つの視点が、企業が人的資本経営に取り組むうえで重要な基盤を形成しているのは確かです。企業の価値評価とESGを重視する視点は、企業が社会に与える影響とその価値を評価するための視点を提供します。タレントマネジメントや海外の人事施策を重視する視点は、企業が従業員の能力に着目して育成制度を構築する場合の視点を提供します。国内の人事労務課題や制度構築・改善を重視する視点は、企業が雇用環境を整備するうえで根幹となる視点や、育成やダイバーシティ施策の根本となる組織課題を把握する視点を提供します。
また、3つの視点にはそれぞれ主唱者や専門家がいます。彼ら彼女らのキャラクター、立場、重んじていることを理解したうえで、それぞれの視点を尊重しつつ、1つの統一された視野に結び付けることにより、統合の方向性が明らかになります。
そして、それぞれの視点は企業の経営状況や人的資本経営に対する理解を深めることに寄与する一方、統合された視野は企業全体の経営戦略と人材戦略を進めるうえでの新たな視点を提供します。統合的な視野を持つことで、企業は経営戦略と人材戦略を一体的に捉え、価値創造とリスクマネジメントの両側面を考慮して戦略を決定できるようになります。
結論としては、人材版伊藤レポートや人的資本可視化指針にもいわれているような「経営戦略とつながった人材戦略を、価値創造とリスクマネジメントの両側面を考慮して決める」という方向性こそが、人的資本経営を推進するうえでの統合的な視野を持つことの最も中心となる軸であるとは思います。その詳細な内容についても考察していきます。