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人事労務事件簿 | #40

在宅勤務者への出社命令の必要性があったとはいえないと判断(東京地裁 令和4年11月16日)

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 今回は、リモートワークを希望する旨を示していた候補者をスカウトし、採用後も1年ほどリモートワークでの勤務を認めていた社長が、その従業員が自分を非難する発言をコミュニケーションツール上でやりとりしたことを発見したことをきっかけに、出社を命令したという事案です。その後、その従業員はもろもろの事情で出社せず、結果として退職扱いとなりましたが、そもそも出社命令は必要といえるものだったのでしょうか。裁判所の判断とその理由とは?

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1. 事件の概要

 本件は、被告(以下「Y社」)の従業員として、主としてリモートワークで業務に従事していた原告(以下「X」)が、労働契約に基づき、賃金未払分などを請求した事案です。今回はさまざまな争点の中から、Y社のXへの出社命令に関する内容について取り上げます。

(1)当事者

 Y社は、ITソフト開発やSES(システムエンジニアリングサービス)などの事業を行っている株式会社であり、Xは、デザイナー職でY社の従業員として勤務していました。

(2)Xによるリモートワークの希望

 Xは、令和2年4月頃、転職サイトを通じて就職活動をしていました。Xのそれまでの仕事は、出社を伴わず完全に自宅で勤務する形態でした。子供を保育園に送迎する必要もあったことから、転職先に求める仕事の形態として、同じように完全に自宅での勤務を希望する旨を記載していました。

 Xは、その頃、同サイトを通じてスカウトメールを受け取ったことから、Y社の代表者と面接をすることになりました。面接においては、Xは明示的に完全に自宅で勤務することを希望する旨を伝えていないものの、Y社代表者は、リモートワークが基本ではあるが、何かあれば出社できることが必要である旨を伝えました。

(3)労働契約の内容

 XとY社は、令和2年5月8日、①賃金月額を40万円とし、②賃金は毎月末日締め翌月末日に支払うことなどを内容とする労働契約(以下「本件労働契約」) を締結しました。

 本件労働契約に係る契約書(以下「本件契約書」)には、就業場所について「本社事務所」と、賃金月額には「毎月45時間分のみなし残業」が含まれる旨の記載がありました。

(4)Xの勤務状況

 Xは、Y社との間で本件労働契約を締結した後は、令和3年3月3日まで自宅で業務を行い(ただし、令和2年12月18日から令和3年2月10日までは休職)、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけでした。

(5)Xの問題メッセージ

 Xは在宅勤務の際、Slackのダイレクトメッセージ機能(以下「メッセージ機能」)を用いて、他の従業員との間でやりとりをしていました。

 そのやりとりには、Y社代表者について「これだけ人辞められてて、まだ理解できないのかな… ??って感じですね! !!!! 負のスパイラルですね! !!!! だから、福利厚生とかを良くしてホワイトっぽくしてるんですね!」などの内容を含むやりとり(以下「本件やり取り」)が含まれていました。

(6)Y社代表者の反応

 Y社代表者は、本件やり取りを含む、Xと他の従業員間のやりとりに気づきました。そして、令和3年3月2日に、やり取り(他の従業員であるBとのやりとり)の画面を添付したうえで、「会社を辞められたほうが良いかと思います」とのメールを送りました。

(7)その後のやり取り

 これに対しXは、同日、Y社代表者に対し、①会社を辞めない、②チャットの内容については、話の流れでBに同調するほかなかった、③会社を辞めるように促す内容はパワーハラスメントである、などと書いたメールを送りました。

 その後、XとY社代表者の間で、Xが本件やりとりでBに同調してY社代表者を非難したことの当否について、Y社代表者は、Bに同調することなくY社代表者に報告すべきであったなどの見解を述べました。

 Xは、「それは告げ口に当たるのでBとの信頼関係を裏切ることになり、Y社代表者の倫理観がおかしい」などと反論し、それを受け、Y社代表者は、「Xの倫理観こそがおかしい」などといったやりとりがメールで行われました。

 その他にも、Y社代表者は、Xに次のメールも送付しました。

  1. 自分がしたことを理解していないようですね、恐ろしい。
  2. 悪口言われて信頼関係築けますか? その感覚が分かりません。
  3. 本件やり取り内で、Xが「馬鹿なの」と発言したことに対して、「馬鹿ですみません」と返答。
  4. Xが優秀な従業員について「自分の都合で辞めさすし」と発言したことは「私の都合で辞めさせておりません。何も知らないくせに」と返答。
  5. Xが「育て方、下手ですよね」と発言したことに対し、「育ててるつもりはありません」と返答。
  6. これでどうやって、信頼関係を築けば良いのでしょうか?
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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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