1. 事件の概要
本件は、平成19年5月8日に死亡した甲野一郎(以下「X」)の相続人である原告らが、Xの勤務先であった被告(以下「Y局」)に対し、Y局の安全配慮義務違反によりXが自殺したと主張して、債務不履行に基づき、損害賠償を請求した事案です。
(1)Xについて
Xは、昭和44年○月○日生まれの男性です。Y局が経営する地方公営企業である「新潟市Y局」の職員でした。
Y局におけるXの勤務経歴は、次のとおりです。
- 平成2年4月Y局に技手として採用され、A課で勤務。
- 平成5年4月技師となりました。
- 平成6年4月B課に異動。
- 平成10年4月C課に異動。
- 平成16年4月B課B1係(以下、単に「B1係」)に異動。
- 平成17年4月副主査に昇任。
- 平成19年4月主査に昇任。
- Y局の組織改編に伴ってD課(以下、単に「D課」)D1係(以下、単に「D1係」)所属。
(2)Xの上司、同僚等
E係長は、平成17年4月、係長としてB1係に着任しました。平成17年4月以降、Xの死亡時まで、継続してXの直属の上司でした。
F主査は、平成18年4月、他の部署からB1係に異動しました。
新潟市は市町村合併を経て平成19年4月に政令指定都市となり、Y局において、平成19年4月、組織改編が行われました。
平成19年4月、Y局の組織改編に伴ってD1係が新設され、E係長はD1係の係長となり、F主査、X(副主査から主査に昇任)も同様にD1係の所属となりました。
平成19年4月以降、D1係の職員は、E係長(副主幹)のほか、I主査、F主査、X(主査)およびH技師の5名となりました。
当時の各人の勤続年数は、E係長28年、I主査22年、F主査18年、X(主査)17年、H技師2年でした。
(3)E係長の性格などについて
E係長は、同僚や部下に対し、仕事上、厳しい対応やかたくなな対応を行う傾向があり、時折、強い口調で発言することもしていました。
そのようなE係長の影響もあって、少なくとも平成18年度のB1係および平成19年度のD1係では、職員の誰かが他の職員に対して、業務に関する質問をする雰囲気があまりありませんでした。
係内での会話が少なく、係内での挨拶もあまりなく、緊張感のある雰囲気でした。
定時になると係の職員はおおむね早めに退庁し、E係長が1人だけで残業をしていることが多い状況でした。
係外の職員の中には、「あまり係の雰囲気が良くない」「係に元気がない」などと感じていた者も少なくありませんでした。
(4)Xの性格等について
Y局の職員から見たXの性格はおおむね、真面目、温厚、物静か、おとなしいというものでした。
また、Xは悩みがあっても、他者に相談することはあまりしませんでした。
Xは、E係長から注意や叱責を受けて萎縮することが多く、特に平成18年以降はE係長と接することが苦痛であり、E係長の自分に対する態度が「いじめ」であると感じ、E係長と接することをなるべく避けようとしていました。