3. 要点解説
(1)雇止め法理の法定化について
労働契約法第19条では、次のとおり規定されています。
(有期労働契約の更新等)
第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
今回は、第19条第2号における「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること」が雇止めの判断の大きなポイントとなりました。
裁判では、主に次の点があることから、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると判断しました。
- 更新の回数および雇用の通算期間が相当多数回かつ長期間に及んでいること
- 雇入通知書上、雇用期間満了時の業務量・労働者の勤務成績、態度・労働者の能力・学園の経営状況・従事している業務の進拔状況などを勘案しつつ、更新する場合もあるとの記載があること
- 事務長から、5~10分程度、簡単な更新の意思確認を受け、その希望次第で更新することができており、更新手続自体が、Xに雇用契約の更新に対する期待を持たせるようなものであったこと
- Xが一貫して従事してきた図書室業務が臨時的な業務ではなく、常用性もあること
- 本件雇止めに至るまでの間、他の時間雇用職員が雇止めされたことがないこと
- F教授を中心とするY社職員の一部の反対運動や、団体交渉もあったこと
(2)無期転換について
労働契約法第18条では、無期転換について次のとおり規定しています。
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
- 第18条同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
- 2略
無期転換については、平成25年4月1日に施行されました。そして、上記規定のとおり、有期労働契約が5年を超える労働者が無期転換の対象となります。
そこで、Y社は、時間雇用職員の通算雇用期間の上限を5年とするなどの対応を行いました。
(3)今回のケース
Y社の有期労働契約社員が無期転換することを防ぐために、一方的に雇用期間の上限を5年とし、Xを雇止めしたことは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとしました。
そして、雇止めが認められないため、Y社は、Xとの間の本件労働契約の内容である労働条件と同一の条件で当該申込を承諾したものとみなされました。
その結果、無期転換の権利である契約期間5年を超過することにつながります。
XからはY社に無期転換の申し込みがなされていますので、X・Y社間の労働契約は、平成31年4月以降、本件労働契約のうち契約期間を除いた労働条件と同一の労働条件で、期間の定めのない労働契約となったものと認めました。