労務担当者には3つの役割が求められている
「労務の最新知識を体系的に理解し、実践につなぐことができる1冊だ」と高い評価を得ている『図解 労務入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)。その著者である坪谷邦生氏、岩田佑介氏、古茶宏志氏の3氏が、労務担当者のキャリアデザインをテーマにパネルディスカッションを行った。
講演の冒頭、坪谷氏が人事に対する自らの定義と著書を執筆した意図を語った。
「『人事』とは『人を生かして事をなす』ことです。1人ひとりの力が十全に発揮され、組織の目的が成し遂げられる状態、つまり『人』と『事』を同時に実現することが『人事』だと私は考えています。また、『労務』は法改正への対応など『具体的なやり方』に焦点が当たることが多い仕事です。現場で起きた問題に対応することは大切ですが、これからの自社にとって何が大切なのか、先手を打って体制を整えていく必要があると考え、この書籍を執筆しました」(坪谷氏)

坪谷 邦生(つぼたに くにお)氏
株式会社壺中天 代表取締役
壺中人事塾 塾長
1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し現在。主な著作『図解 人材マネジメント入門』(2020)、『図解 組織開発入門』(2022)、『図解 目標管理入門』(2023)、『図解 労務入門』(2024)など。
本論の最初に、岩田氏が「労務担当者のキャリアは成果・能力・役割の3つの視点から考えてはどうか」と提案した。今回、岩田氏がフォーカスしたのは、役割と能力の2つだ。最初に「労務の役割を視聴者がどう感じているのか。チャットに書き込んでほしい」と視聴者に呼びかけた。

岩田 佑介(いわた ゆうすけ)氏
岩田社会保険労務士事務所 所長
特定社会保険労務士。株式会社パソナ、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の2社にて人事コンサルタント、ライフネット生命保険株式会社の人事部長を務めた後に独立。著書として『図解 労務入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ベンチャー・スタートアップ企業の労務50のポイント』(セルバ出版)、『経営戦略としてのワーケーション入門』(金融財政事情研究会)。
視聴者からは、「全従業員との信頼関係の基盤」「会社を守る役割と従業員を守る役割の二刀流」など、さまざま声が寄せられた。それらを受けて、著者らの持論を坪谷氏が代表して解説した。
「我々は労務に求められる役割は3つあると考えています。それらが木の年輪のような構造になっています。最も真ん中にあるのが『オペレーションエクセレンス(OE)』です。これは、業務に関するさまざまなオペレーションを滞りなく正確に処理していく役割を担っています。その一回り外にあるのが『ルールマスター(RM)』。ここは、労働者からの相談や労務トラブルに関して、ルールに照らし合わせながら迅速に解決へと導く役割です。最も外側にあるのが『ストラテジスト(ST)』。社会全体のマクロな動きに注目しながら、自社で取り組むべきことを構想し、社内に実装する役割です。この3つの中で最も重要なのはOEです。ここが崩れるとすべてが崩れてしまいます」(坪谷氏)
さらに、坪谷氏は3つの役割について補足した。
OEは、労務業務の正確なオペレーションを担う。その上で、見直し・改革を行うだけでなく、新規施策をオペレーションへ落とし込むことも役割となってくる。RMは、イベントの発生と相談、ルールの使いこなし、対応の検討と提案を行う。STは、労働者のニーズや社会のマクロな動きに合わせて働き方とルールを変更し、自社に実装して、社会的インパクトにもつなげていく役割を担う。
そう述べたうえで、坪谷氏は視聴者に「自らが果たしている役割を一度考えてほしい」と呼びかけた。
これに対して、チャットには「社員の人生の一部に関わっている」「給与計算を通じて社員とその家族の生活を支えている」「人事としての数値を意味のある情報として加工し、提供している」といった声が寄せられた。