日本経営協会は、就職3年前後の正規雇用者を対象とした定点調査(3回目、前回調査2019年)を実施し、「若手社会人就労意識ギャップ調査報告書2024」を刊行した。
入社動機、1位は「やりたい仕事ができる」
最初に入社・入職した企業・団体を選んだ理由で最も多かったのは「自分のやりたい仕事ができると思ったから」で30.1%、次いで「安定感があると思ったから」が23.2%、「給与・福利厚生が良いと思ったから」が22.3%となったが、いずれも前回調査から割合は減少した。
一方で、5位の「自分の能力や専門性を伸ばせると思ったから」、6位の「ワーク・ライフ・バランス(仕事と私生活のバランス)が良いと思ったから」は順位を上げている。
定年まで働きたい人は減少
今の企業・団体でいつまで働き続けたいと考えるか質問すると、「次の就職先が⾒つかるまで」が27.0%で最も多く、次いで「ライフイベント(結婚、出産など)にあわせて」が25.3%、「転職できるだけの実⼒(スキル・キャリア・⼈脈)が付くまで」が22.3%と続く。
前回調査で1位であった「定年まで」は10.2ポイント減少し、4位となっている。なお、今回1位の「次の就職先が⾒つかるまで」、2位の「ライフイベント(結婚、出産など)にあわせて」は、過去2回の調査から順位が上がった。
入社後に遅れていると感じたものは「職場のデジタル化」
最初に入社・入職した企業・団体で遅れていると感じたものを聞くと、「職場のデジタル化」が36.4%で最多となり、次いで「働く場所の柔軟性(テレワークなど)」が19.2%、「働く時間の柔軟性(フレックスタイムなど)」が17.3%と続いた。
社員・職員の「ITリテラシー」の低さに関する意見も見られる。Z世代と言われる現在の若手社員・職員はデジタルネイティブであり、物心ついた頃から活用しているため、職場の遅れを強く感じていると考えられるという。
「昇進したくない」は6割手前まで増加
現在勤務している企業・団体で、どの役職まで昇進・昇任したいか質問したところ、最も多かったのが「昇進・昇任したくない」で58.4%と、前回調査より15.8ポイント増加。性別では、女性は65.6%、男性は42.2%となり、女性の昇進・昇任意欲のほうが低く、管理職以上を目指したい女性は約1割にとどまった。
なぜしたくないのか(昇進・昇任しないことで目指すこと)については、「自由な時間を多く持つこと」が54.6%で最多となり、次いで「周囲を気にせずにマイペースで働くこと」が35.8%、「責任を負わないこと」が29.6%、「プライベートでやりたいことを極めること」が25.0%と続いた。ワークライフバランスを重視する意識の高まりが見て取れる結果となった。
理想の職場は「人間関係や雰囲気がよい」が最多
若手社員・職員が職場に求めるものや重視することを聞くと、前回調査と変わらず「人間関係や雰囲気がよい」が1位であったが、前回より大幅にポイントを下げた。一方で3位の「仕事のルールや決め事が明確になっている」が24.3%と、前回の7位から順位を大きく上げている。
若手社員・職員は職場の人間関係を重視しており、特に上司や先輩が親切で、自分の成長を支援してくれて、意見が言いやすいという職場を望んでいるという。また、仕事のルールや決め事が明確になっていることを求めることから、フェアであること、合理的なことを求める傾向が感じられるとしている。上司は、暗黙の了解、あうんの呼吸といったあいまいな仕事の進め⽅は、もはや通⽤しないことを改めて認識する必要があると同社は述べる。
加えて、若手社員・職員が理想とする上司について聞くと、「親しみやすく話をよく聞いてくれる」が44.5%で最も多く、「人間として尊敬できる」が37.2%、「困ったときに助けてくれる」が34.1%と続く。
リーダーシップや厳しさより、親しみやすさや面倒見の良さを求めていることが分かる。また、「人間として尊敬できる」「感情的にならない」が上位にきており、パワーハラスメントをはじめとするハラスメントへの拒否感がうかがえる結果となった。
活用したい制度は「テレワーク」が大きく順位を上げる
若手社員・職員の働き方改革に対する意識を探るために、活用したい制度を聞いたところ、1位は前回と同じ「産休・育休制度」が32.7%で、2位は「テレワーク制度」で28.1%となった。テレワーク制度は新型コロナウィルスの感染予防対策として、⼤学のオンライン授業導入や企業・団体での導入が進んだこともあり、前回の7位から⼤きく上がった。
なお、「どれも活用したいとは思わない」が前回より15.0ポイント増加して23.6%となっており、「テレワーク制度」を除いて全体的に活用したい比率が前回より低下している。
「私生活重視」が優勢、「仕事重視」は2割を切る
ワークライフバランス(仕事と私生活のバランス)の理想は、「仕事重視」の合計比率が18.4%であるのに対し、「私生活重視」の合計比率は44.4%であった。なお、「どちらも同じくらいのバランス(仕事5:私生活5)」は24.7%となった。
自信がある能力は1位「傾聴力」
経済産業省の提唱する「社会人基礎力」に「語学力」を加えた13の能力について、どの程度自信があるかを調査。社会人基礎力の概要は下図のとおり。
若手社員・職員が特に自信がある能力は「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」であり、いずれもチームで働く力に分類される。上司や先輩の話をよく聞き、組織のルールを守り、周囲の情況に合わせて柔軟に対応するというフォロワーシップの高さが感じられる。
前に踏み出す力は、「実行力」は比較的高いが「主体性」「働きかけ力」はやや劣った。与えられた仕事は実行できるが、自ら行動したり周囲に働きかけることは自信がない人が多いと予測できるという。
考え抜く力では、「計画力」は比較的高いが「課題発見力」「創造力」は低い。計画的に業務を遂行することにはある程度自信はあるが、創造力を働かせて新たな課題の解決に取り組む力は不足していることが分かる。
自信がない項目は、「創造力」「発信力」「語学力」である。この傾向は前回の調査結果と変わっていない。
自己啓発は二極化、オンライン学習の人気が上昇
⾃⼰啓発のために⾏っていることについては、「資格取得、検定合格を⽬指して勉強している」が15.7%で最多となり、次いで「eラーニングで学習している」が14.2%、「専⾨書で学習している」が12.8%と続いた。「eラーニングで学習している」は前回の5位から2位に順位が上がっている。コロナ禍を経て、オンラインでの学習が⼀般に浸透したことの表れだという。
⼀⽅、「能⼒を⾼めることについては考えているが、何も⾏っていない」「能⼒を⾼めることについて考えたことはなく、何も⾏っていない」を合わせると、50.5%が何も⾏っていないと回答した。前回よりも「能⼒を⾼めることについて考えたことはなく、何も⾏っていない」の⽐率が19.4 ポイント増加している。
なお、調査の概要は次のとおり。
- 調査手法:インターネット
- 調査期間:2024年7月3~6日
- 調査対象者:大学・大学院・専門学校等を卒業し初めて就職して2年半~3年半経過した現在正規雇用者として働いている人
- 有効回答:712人
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回答者プロフィール:
- 平均年齢:「25.6歳」
- 性別比率:「男性3:女性7」
- 主要な勤務先業種:「医療・福祉」(25.6%)、「サービス業」(14.9%)、「製造業」(14.0%)
- 主要な職種:「事務職」(28.8%)、「技術職」、(21.9%)「サービス」(16.0%)
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