スピーカー

宮武 貴美(みやたけ たかみ)氏
社会保険労務士法人名南経営
特定社会保険労務士 産業カウンセラー
愛知県立大学卒業後、システム開発職、企業秘書職を経て、2002年に名南経営に入社。社会保険手続、給与計算業務(特に新規立ち上げ支援)に従事する傍ら、人事労務分野でコンプライアンス遵守に向けた指導を進めるようになる。現在では、人事労務分野での指導を主として行いつつ、書籍執筆・各種講演を精力的に行う。労務ドットコムブログのメイン執筆者であり、人事労務の最新情報をホームページ・ブログ・メルマガ・facebook・X(旧Twitter)などで発信し続けている。
代表的な著書に『改訂3版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本』、『総務担当者のための介護休業の実務がわかる本』(日本実業出版社)『図解ポケット 産休・育休制度の基本と仕組み』(秀和システム)、『増補版こんなときどうする!? 社会保険・給与計算ミスしたときの対処法と防止策31』(労務行政)などがある。
現行の育児・介護休業法のおさらいと改正の概要
仕事と妊娠・出産・育児期の両立支援制度としては、産前産後休業(産前6週[1]・産後8週)があり、子どもが生まれた以後から小学校入学前までの期間において、育児休業、子の看護休暇などの制度が整備されている。2025年4月の改正で、子の看護休暇の対象年齢が小学校3年生修了までの子どもとなり、所定外労働の制限(残業の免除)の対象となる子どもの年齢も拡大する。さらに同年10月より、新しい制度として「柔軟な働き方を実現する措置」が、3歳から小学校入学前までの子どもを養育する従業員を対象に設けられる。宮武氏は「今回の改正は、育児休業の制度について変わらず、できるだけフルタイムで仕事と育児ができるようにすることに着目されているものである」と話す。
注
[1]: 多胎妊娠の場合は14週。
一方、仕事と介護の両立支援制度についても、介護休業のほか、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、介護短時間勤務等が用意されている。宮武氏は「4月の改正では、介護休業も含めたさまざまな両立支援制度について従業員に伝え、介護離職を防止するという意味でも対応は重要である」と語る。たとえば、介護休業と介護短時間勤務は利用期間が限られているが、これらを除く制度は、常時介護を必要とする状態から介護終了までの期間、継続的に利用できる。介護期間が長くなれば、その分制度の利用期間も長くなるが、家族の介護を担う従業員が両立支援制度を利用することで、仕事を継続する選択ができることとなる。
育児休業への関心が向上、いい人材を採用するためにも対応が必須に
それでは、現在の若年層(18~25歳)の仕事と育児の両立に対する意識はどうなっているのだろうか。厚生労働省の委託事業「イクメンプロジェクト」によるアンケート結果(2024年6月実施)によると、男女ともに育児休業取得への関心が非常に高く、男性の84.3%、女性の91.4%が育児休業の取得を希望している。注目すべきは男性の育休取得期間への希望だろう。かつては数日程度だったものが、今回の調査では1~3ヵ月が25.3%、半年以上が29.2%と長期化する傾向にある。
この点について宮武氏は、「夫婦ともに育児休業を取って育児をしたいという意向がうかがえる。もしかしたら、夫婦ともに実家が遠いなどの想定も影響しているのかもしれない」と分析する。
さらに、男女とも若年層の9割近く(88.6%)が配偶者にも育休を取得してほしいと考えており、その影響もあってか、就職活動時に育児休業制度を重視する傾向が強く、約7割が重視し、6割以上が育休取得実績がない企業への就職を避けたいと考えている。
この結果から宮武氏は、「育児・介護休業法の改正に義務として対応すべきというより、『いい人材を採用するために』対策をとることが重要になってきている」と指摘した。
そうした中で、改正育児・介護休業法が2025年の4月と10月に施行される。特に意識しておきたいのが「就業規則の見直し」であり、4月と10月ともに対応が必要となる。これについては、厚生労働省の「育児・介護休業等に関する規則の規定例」が参考になる。また、厚生労働省の育児・介護休業法の特設ページに詳しく解説されたリーフレットや実務に則したQ&Aも掲載されているので参照するとよいだろう。
なお、本セッションの以降の説明は、厚生労働省が発行しているリーフレットの項目を中心に進められた。