前編「ウェルビーイング経営のリアル」を専門家×実践者が語る! “働く幸せ”を追求する成功企業の共通点とは」では、ウェルビーイング経営の必要性や成功の鍵について議論しています。
“背中を預けられる仲間”はこうつくる テックタッチ流の採用とは
——前編では、ウェルビーイング経営の本質や重要性について語っていただきました。ここからは、スタートアップ企業におけるウェルビーイング経営の具体例として、テックタッチの取り組みを教えてください。
井無田 仲氏(以下、井無田) テックタッチでは、「人中心の会社」を実現するために3つのコアとなる発想があります。
1つ目は、「社会課題の解決につながる仕事」。自分たちの仕事を通してお客様やその先にある社会をよりよくするという世界観に共感してくれる仲間を迎え入れてきました。
2つ目は、「キャリアのチャレンジ」。人は、新しいことにチャレンジしている瞬間に最も面白みを感じるものだと私は思います。そのため、個人が主体的に目標を持って動ける環境を重視しています。自分自身のキャリアに長期的なビジョンを描き、その実現に向けて主体的に挑戦を重ねることで、「個人としての成長」につながることが重要だと考えています。
3つ目が「背中を預けられる仲間」の存在。リスクを伴うチャレンジでも、周囲がそのメンバーを信じて挑戦をサポートすることで、安心して高い目標に挑めるはずだと考えています。

井無田 仲(いむた なか)氏
テックタッチ株式会社 代表取締役CEO
慶應義塾大学法学部、コロンビア大学MBA卒。新生銀行、ドイツ証券などで投資銀行業務に従事、上場企業の資金調達/M&A案件を数多く手がける。その後入社したユナイテッド社では、アプリ事業責任者、米国子会社代表としてアプリサービスのグロース/スケールを経験。フリーランスを経て、2018年3月にテックタッチを日比野と共同創業。楽しい未来を創るために日々奔走中。
野間 健司氏(以下、野間) 明確な方針ですね。採用にもこだわりがありますか。
井無田 はい。スタートアップにおいて最も有効な投資は「人材採用」だと考えています。私は「良い人」を採用すると表現しているのですが、スキルや経歴以上に、価値観にフィットするかを見極めるようにしています。そうした仲間を増やすことで、上下関係を気にせずフラットに発言しあえる関係性や、チャレンジできる心理的安全性が醸成されていきました。
野間 個人が会社に参画する価値を感じられるような魅力的な文化をつくっておられるのですね。成長やチャレンジに主体的な人というのは、「起業家マインド」を持つ人とも言い換えられると思います。入社後も、主体性を持てるよう促していることが、仕事を通じて幸福を感じている人が多い要因なのだと思いました。

野間 健司(のま けんじ)氏
産業能率大学 経営学部 教授
中央大学 法学部 法律学科卒。民間コンサルタント会社、学校法人産業能率大学 総合研究所においてリーダーシップトレーニング、ワークモチベーショントレーニング、組織開発トレーニングを担当。2021年4月より産業能率大学 経営学部 教授。
井無田 そうですね。個人の成長と会社の成長を結びつけること、成長の機会をつくることが経営者としての役割の1つだと考えています。
野間 ウェルビーイング経営に成功している他の企業でも同様の傾向にあります。たとえば、ある製薬会社では、10年後の退職プランをつくる仕組みがあります。それはつまり、どこに行っても通用する能力を身に付けてプロフェッショナルであれというメッセージに他なりません。そうやってスキルを高めた後は、社内で自分の望むキャリアを切り拓いてもよいし、社外に飛び立つこともできる。従業員に対する最高の愛情だと私は思います。