調査から見るIT・DX人材育成の課題
生成AI領域を含むDX人材の育成・採用支援を行っているギブリー。同社が毎年行っているDX推進とデジタル人材の育成に関する意識調査によると、昨今企業に求められているIT・DXのスキルやそれを身に付けるための研修のあり方は、変化してきているという。
森氏は、「2025年の調査データを踏まえ、AI時代において新入社員研修をどのようにアップデートしていくべきなのか解説します」と話し、セッションを始めた。

森 康真(もり やすなお)氏
株式会社ギブリー 執行役員 人事部管掌 兼 育成ソリューション事業部 シニアプリンシパル
北海道大学工学部情報工学科 卒業、同大学院情報科学研究科修士課程 修了。SAPジャパン株式会社にて人事コンサルタント、株式会社野村総合研究所にて、アプリケーションエンジニアを経験。株式会社ワークスアプリケーションズでは採用担当として数々のプロジェクトに関わり、特にエンジニア採用リーダーとして先進的な採用手法を確立する。2019年3月より株式会社ギブリーに参画。これまでのエンジニア/人事/コンサル経験を生かし、カスタマーサクセスチームマネージャーおよび研修講師として業務に当たる。2023年からは自社の人事業務も兼任。
調査には、100名弱のスタートアップから1000名以上のエンタープライズ企業まで、人事や情報システム部を中心とした職種の167名が回答した。
調査結果によると、DXの推進の必要性は大半の企業が強く感じている中で、大企業ほどその傾向は強くなっている。また昨今の傾向として、DX推進において注力したい人事施策として「新卒研修」が伸びているという。既存社員のリスキリングは落ち着いて、新卒社員の育成に力を入れたい企業が増えている。

興味深いのは、新卒のIT・DXスキルが入社時点で高い傾向にあることだ。森氏はその理由を「企業がITスキルの高い人材の採用を優先しているうえ、高校・大学時代からIT教育が始まっている世代が入社しているから」だと指摘する。
調査結果の中で昨年から大幅に進んだのが、「デジタル研修の外注化」である。昨年は半数以上が研修を内製していたところ、2025年の調査では「外部パートナーに委託して行った」「外部パートナーと組み合わせて行った」企業が半数を超えた。
新卒研修における悩みについての質問では、「カリキュラムの更新や技術の反映」が課題になっていることが明らかになった。また、「受講生のスキル差への対応」も課題の1つだが、研修前後のスキル評価や効果測定を行っていない企業は50%を超えた。
このように外注化が進み、カリキュラムの更新が課題に挙がるのは「生成AIなどのテクノロジーが登場し、技術の変化が激しいため」だと推察される。実際に「生成AIの活用に関する研修」を実施している企業は増えており、リテラシーや活用に関する研修の実施は2023年と比べて2倍ほどに増えている。

一方で、「新卒のデジタル研修の内容が、必要なスキル要件に十分対応できている」と感じられている企業は少ない。生成AIをはじめ、新しい技術を貪欲に取り込んだ研修が増えているものの、さらなるカリキュラムの強化が求められているのだ。
では、どのようなスキルが求められているのか。調査からは「ビジネスデザイン・モデル設計」および「生成AI・データ活用」のニーズが高まっていることが分かった。ビジネスデザイン・モデル設計は、顧客の課題発見やデザイン思考、調査分析やマーケティングに関わる領域だ。生成AI・データ活用に関しては、特にプロンプトエンジニアリングや、AI倫理に関するスキルの必要性が増している。

ここで森氏は、経済産業省が定義するデジタルスキルの標準を紹介。DXに必要とされる知識・スキルについて、5つの人材類型ごとに整理されているが、その中でも「ビジネスアーキテクト」と「デザイナー」に求められるスキルは「ここ数年間で非常に変わってきた」と指摘する。
簡単にいえば、どちらの職種でもテクノロジーとビジネス両方の知識・スキルが求められるようになってきたのだ。
「これからのデジタルスキル人材は、テクニカルスキルとビジネススキル、両方を高めていかなければならない」と森氏は言う。テクニカルスキルを武器に、新しいビジネスの創出や既存ビジネスの変革をできる人材が求められていることの表れだろう。
新卒研修をアップデートする3つのポイント

では、テクニカル×ビジネスのスキルを育成するために、企業は新入社員研修をどのように更新していけばよいのだろうか。森氏は、カリキュラムのアップデートポイントを3つ紹介した。
1つ目は「デザイン思考」の導入だ。デザイン思考とは、ビジネスなどにおける未知の課題に対して、解決方法を考える思考法・マインドセットのこと。経産省が提唱するデジタルスキル標準の中でも、このデザイン思考が重要スキルに位置付けられている。
このデザイン思考を新卒研修に取り入れることによって、テクノロジーに強い社員はビジネスとのつながりを見出し、ビジネス側にも意見を出してよいという感覚を養える。一方、ビジネス側の社員はデジタルの知識を得て、これまでにない事業や既存事業の効率化を考え出せるようになるという。
「当社では、まずデザイン思考のワークショップを行ってつくるものを決め、その後チームで開発を行うという研修を提供しています。自分たちで企画したものを自分たちでつくるという体験は、新入社員にとって非常にモチベーションが上がるポイント。実際、デザイン思考を行ったことで、『もっとスキルを伸ばしたい』『自社製品を良くしていきたい』という気持ちが芽生えるという成果も出ています」(森氏)

2つ目は「デジタルスキルの効果測定」。先述の調査データのとおり、受講生のITスキルの差が広がっているにもかかわらず、研修前後のスキルの測定を実施していない企業が多いのが現状だ。
そこで森氏は、「研修前にレベルを測るテストを実施して、結果別に研修コースを分ける」ことを推奨。研修の終了後にもアセスメントを実施して、カリキュラムの目標を達成できたかを振り返ることが理想的だ。アセスメントの結果をもとに次のカリキュラムを更新できるほか、研修の成果を経営陣に上申する際の重要なファクトにもなる。
そして3つ目が「自己学習スキルの習得」だ。
技術の変化は激しく「去年の常識が、今年は使えない」といった事態が増えている。具体的にいえば、2023年時点では生成AIが苦手としていた汎用的な知性を計測するテストで、現在では先進的なAIモデルは人間の平均を超えるスコアを達成している。
IT・DXのスキルを習得しても、一部の領域、特にAIなどの最先端領域に関してはすぐ陳腐化してしまう。そのため、知識自体を教えることよりも、新しく出てきた知識を自分で獲得していくための学習習慣や自己学習力を身に付けてもらうことが重要なのだ。

森氏は、自己学習力を身に付けるためのヒントとして「アクティブラーニングやファインマンテクニックといった手法を使って、自分の中で知識を理解し、分かりやすく人に伝えるというプロセスが効果的」と語った。
また、自己学習には「質問力」も必要になる。分からないことを質問できるスキル・マインドを育むカリキュラム設計は、新入社員研修においては特に重要だ。
ギブリーでは、こうした3つのアップデートを実現する新入社員研修のサービスを提供している。「Track Training」というブランドで、数多くのテクノロジー企業に導入されている。

この研修は生成AI研修や、受講生のスキルに合わせたクラス・カリキュラム設計に特徴がある。また、受講生の習熟度向上にコミットする“Giver”な講師がそろっている。さらに、企業の課題に合わせて最適な育成プランを作成してくれるという。
「Track Trainingは、アセスメントを実施したうえで階層別に研修を行い、研修後の目標到達度合も精密に測定。上申しやすいレポートまでいっしょにつくることで、企業のDX人材育成を支援します」(森氏)