「AIで人が切られる」の実態——代替ではなく協働
松岡 日本では、少子高齢化の影響で、労働供給が制約される状況にあることから、生成AIの技術的可能性にやや楽観的な立場で、AI代替を進めていくのだという方向性が強調されがちですが、事前の打ち合わせで、幸田さんが見ておられる米国の空気は違うという話を伺っていました。そのあたりについてもう少しお聞かせください。
幸田氏 はい、「人間の置き換え」というより、ゴールとして「協働」が見えてきていると考えています。
解像度を上げていうと、正直「業務による」という話なのですが、かなり乱暴に区分けすると、データがあり、やることを説明できて、置き換えの幅が広い業務、つまりビジネス的なメリットが見える業務であれば、置き換えられると思います。ただ、そうした業務は多くありません。
たとえば営業の中でも「営業開拓」に当たる部分は、やることがある程度決まっていますし、お客様の状況を捉えるニュースのような情報も取得できます。さらに帝国データバンクのようなサービスも存在するので、実現できる領域です。一方で、お客様の顔色を見ながら適切なタイミングで提案をかけていく、といったことは当然難しいわけです。
そのため、自動化できるところは置き換えが進んでいくと思いますが、基本的にそこまで賢いわけではないので、人間と協働し、人間をサポートする動きをするのが、技術的な面から見ても現実的ではないかと思っています。
加えてもう1点、米国と日本の違いも含めてコメントすると、米国では一時「賢くないなら使えないのでは」という議論が目立っていたと思います。そこに対するアンチテーゼが、先ほどのワークフローでの自動化だと理解いただければと思います。要するに、短い範囲であれば自動化の効果は限定的ですが、範囲を長くし、しかも人の手を介さないようにすればするほど、効率化の幅が広がる、ということです。これは既存のシステム化ではできなかった点であり、そこがポイントです。
従来の業務効率化ではRPAがHR領域などでよく使われていましたが、あれは基本的にif文(条件分岐)の積み重ねなので、長いフローを回すことができませんでした。現実に追随できなかったともいえます。ところが、ある程度確率論的に自動化する生成AIであれば、長いフローの自動化が初めてできるようになった、というのが重要なポイントになります。
もちろん、ガードレールになる部分を設けることや、確率論的であるがゆえに一定のチェックが必要になることなど、追加の工夫は必要です。それでも、業務効率化において自動化の範囲が大きく広がった、というところがまず見ていただきたい点だと思います。
松岡 AI代替という意味では、AI影響による要員数の見直しや解雇について、米国の動向を知りたいという質問も参加者からいただきました。
幸田氏 AIで人が置き換わると言いながら、米国企業はレピュテーションリスクを強く恐れるので、「AIを理由にレイオフする」とはあまり言いません。するとしてもBPOなど外部委託先で、という言い方になりがちです。一方で採用数を減らす、自然減を狙うというスタンスは見られます。
モデレーターから一言(編集後記)
モデレーターとして今回のイベントを迎えるまでに、幸田さんと事前に何度も打ち合わせを重ねました。毎回のディスカッションが刺激的で、幸田さんとの対話を重ねる中で、Embedded HRという概念が少しずつ輪郭を持ち、立ち上がってくる感覚がありました。
幸田さんは、私をピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会に紹介していただき、また協会の「人的資本経営の実践と導入分科会」の立ち上げから、私とともにグループリーダーとして活動してくださっている方でもあります。分科会イベントをどう盛り上げるべきかについて、いつも相談に乗っていただきました。
2024年に米国サンフランシスコへ赴任される際、日本橋のおそば屋さんで宴席を行い、にぎにぎしくお送りしたのですが、内心寂しく思っておりました。しかし、その後、米国でリサーチを続け、さらにパワーアップした幸田さんからシリコンバレーの空気を含めた米国の技術動向を、今回改めてお伺いすることができたことは、お留守番の寂しさが吹き飛ぶ楽しい経験になりました。
これからも、米国の動向をぜひ聞かせていただけるのを楽しみにしております。

