2. 裁判所の判断
(1)基本的な考え方
一般に、パワーハラスメント行為とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為をいうと定義されている。
Xは、A代表、O副社長およびBにより嫌がらせやパワーハラスメント行為を受けたと主張している。
しかし、Y社は、いずれも業務上必要かつ相当な注意指導であり、本件退職勧奨①および②ならびに本件訓戒処分も適法であると主張する。
そこで、以下につき検討する(本稿では、パワハラと認定した内容について取り上げる)。
(2)Bによる勤務時間中の読書に対する口頭注意および警告
Bは、Xが勤務時間中に読んでいた本が業務に関連するものであったにもかかわらず、これを業務と無関係の本であると誤認したうえ、このような事実誤認を前提として、Xに対し、就業規則違反を理由とする警告を行った。
また、当該警告前にXに対する事実確認すら実施せず、また、Xから業務に関連する本であったと反論された後も、「業務に関連する本であっても上司の了承を得ずに勤務時間中に読むことはできない」と付言した。
確たる根拠を提示することなく、Xの反論を虚偽であると断定したうえ、虚偽の反論をするとさらに重い罰則を適用する場合があるとの警告を追加したと認めることができる。
このようなBの一連の行為は、Xに対する事実確認等の容易な調査すら実施せず、誤った事実に基づき就業規則違反を理由とする警告をしたうえ、確たる根拠もなくXの反論を虚偽と断定し、さらに重い罰則の適用を警告したという点で著しく相当性を欠く。
これは、業務の適正な範囲を超えて、Xに精神的苦痛を与える行為に当たるものであったと認められる。したがって、Bの当該一連の行為は、パワーハラスメント行為に該当するといえる。
(3)転送メールに関する注意指導
Bは、XがBに情報共有を目的としてメールを転送したことに関し、取引先とのメールを転送する際に転送理由を付記していなかったことについて、あたかもXがBに参加の可否を確認することなく、Bが取引先との打ち合わせに参加することを前提にこれに関連するメールを転送したかのような断定をした。
「上司に会議参加可否の確認をするなら、そのような文面できちんと書いてください。Xさんには私の時間を決める権利がありませんので、ちゃんと理解してください。そして会社員として、社内メールのマナーを学習してください。Xさんの勤務態度にはとても問題を感じます……改善が見られない場合は訓戒警告を出します」など強い表現で厳重注意し、懲罰の警告まで出していることが認められる。
Bが、Xに対し、メールを転送する際にその理由の説明を付記するよう指示することは、Xの上司として適正な業務の範囲であると考えられるが、BのXに対するこのような厳重注意や懲罰の警告は、Xに対し、メールを転送した理由が不当なものであると一方的に断定して非難している点で、手続き的に相当性を欠くのみならず、その内容自体も過剰なものといわざるを得ず、業務の適正な範囲を超えて、Xに精神的苦痛を与える行為に当たるものであったと認められる。
BのXに対する転送メールの注意指導は、パワーハラスメント行為に該当するといえる。
(4)BがXの遅延証明書に押印しなかったことについて
Bは、合理的な理由もなく、Xから提出された遅延証明書に当日中に承認印を押さず、この件に関する翌日の話し合いにおいてXから謝罪を求められてこれを拒否し、その後も遅延証明書に承認印を押さなかったことが認められる。
このようなBのXに対する対応は、業務の適正な範囲を超えて、Xに精神的苦痛を与える行為に当たる。
(5)Bによる業務連絡の在り方に関する反省文の提出指示
Bは、XがI営業本部長およびBの不在を認識していたと一方的に断定し、Xが両者の不在を認識しながら回答期限内または期限後、速やかに物流会社からの回答を取引先に伝えなかったことが責任放棄に当たると非難し、反省文の提出をXに求めた。
しかしながら、Bが反省文の提出を指示した時点で、XがBの不在を認識していたと断定する根拠を欠き、また、Xが取引先に対し、物流会社からの回答を速やかに伝えなかったことが責任放棄に当たるとの評価自体が適切なものであったとは認め難い。
また、Xが提出した反省文について、Xの言い分を考慮することなく、再度反省文の提出を指示し、反省文を提出しないときは減給処分にせざるを得ないとの警告までしている。
これらBの一連の行為は、職務上の地位を背景に、適正な指導の範囲を超えて、Xに精神的苦痛を与えるものであったと認められ、パワーハラスメント行為に該当するといえる。
(6)退職勧奨、訓戒について
BがXの直属の上司としてY社に入社した平成31年2月1日以降、BとXが衝突を繰り返し、両者の関係が悪化している。
そして、その一因が、XのBに対する挑発的な言動にあるとはいえるものの、そのようなXの言動の原因には、Bの事実誤認に基づく断定的で強硬な対応や業務上の不当な対応等があったと認められる。
しかるに、本件退職勧奨①および②ならびに本件訓戒処分に際し、A代表は、BとXとのメールの共有を受けている。すなわち、両者の言い分に食い違いがあることを認識または十分に認識し得る状況にあった。
加えて、物品購入に係るIDおよびパスワードの件でXを叱責した際、XからBが一方的に物事を押し付けようとしており、相談できるような体制になっていないとの申告があった。
しかし、本件退職勧奨①の前に、XとBとの関係について、Xの言い分を聴取し、Bの問題点を踏まえた対応を取っていたとは認められない。
また、本件退職勧奨①においても、A代表は、Xと込み入った話はしたくないと述べたり、Xの反論に対して机を指で叩きながら声を荒げて反論したりしており、Xに対し問題点を具体的に指摘したうえでその言い分を十分に聴取したとは認められない。
そのような中で退職の条件を提示し、Xが本件退職勧奨①に応じなかったことを受けて、本件訓戒処分をし、さらに本件退職勧奨②に及んでいる。
このように本件退職勧奨①および②ならびに本件訓戒処分については、「上長の指揮命令に従わず、上長に反抗的な態度を示し、反省を拒むこと」と評価し得る行為が一応認められる。
しかし、その根拠とした「会社の管理体制系統を無視し、飛越行為を繰り返した」に該当する行為は認められないという点において、根拠が乏しい。
そのうえ、これに至る経緯、XとBとの関係悪化の原因が両者にあったことを考慮すれば、Xの言い分を十分に聴取することなく、事実確認や背景事情の確認等が不十分のまま、退職を勧奨したり、誓約書の提出を求めたり、さらなる厳罰を警告したりするなど、一方的にXに不利益ないし責めを負わせようとするものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとはいえない。
(7)パワーハラスメントを認定
以上をまとめると、Bが、Xに対し、平成31年2月1日から同年3月上旬までの間に、勤務時間中に業務と無関係に本を読んでいると断定するなどして就業規則違反を理由とする警告等をしたこと、Xがメールを転送した理由を一方的に断定して非難したこと、合理的な理由なく遅延証明書に承認印を押して返却しなかったこと、合理的な理由なく業務連絡の在り方について反省文の提出を指示したことは、いずれも職場内の優位性を利用し、適正な業務の範囲を超えて、Xに精神的苦痛を与えるものであると認められ、パワーハラスメント行為に当たる。
また、本件退職勧奨①および②ならびに本件訓戒処分は、事実確認等も不十分なまま行われたものであり、社会通念上相当なものとはいえず、職務上の地位優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的苦痛を与えるものとして、パワーハラスメント行為に当たる。

