“泥臭い方法しかない”スキルの棚卸し 269個のスキルが146個にまとまるまで
——スキル管理を導入する際に苦労されたポイントはありますか。
河島 スキル管理を始めるにあたっては3つの壁があると感じました。「スキルの棚卸し」「部門の理解」「運用」の3点です。
1つ目の「スキルの棚卸し」は、まず「人事と現場のどちらがどこまで行うのか」というマターがあります。当社の場合は、人事部が現場をサポートしながら「現場主導」としました。スキルの分類など現場でしか判断できないことについては、「負荷はかかるけれど現場でやってほしい」ということは濁さずに伝えましたね。
棚卸しは、ひたすらスキルを洗い出して整理していくという、泥臭い方法しかありません。機械式時計の部門では、3つの課がそれぞれ定義していたスキルが269個あり、そのうち重複しているものや不要なもの、新しく必要になったスキルを整理したところ、最終的に146個にまとまりました。
——「泥臭い方法しかない」とのことですが、人事はどのようなサポートができるのでしょうか。
河島 ただ現場に任せるのではなく、人事もいっしょに会議に入ってファシリテーションを行いました。また、Skillnoteのコンサルタントの力を借りたことで話が進んだことも多かったです。
スキルの定義で意見が割れたときに、コンサルタントから「製造業ではだいたいこうしていますよ」という助言をもらえると、一旦の着地点を見つけられます。いきなり100点を目指すのではなく、現時点の正解に落ち着くことを目指してサポートしていました。
「スキルを可視化するメリット」をどう伝え、理解してもらうか
——なるほど。2つ目の「部門の理解」についてはどうでしょう。
小林 さまざまな現場にスキル管理の必要性を説明したものの、現場の視点からでは「間に合っている」と言われることが多く、苦労しました。
「現場レベルではスキルは把握できていて、改めて整理するメリットがない」「スキルを可視化したところで何ができるのか」と率直に言われることもありました。
そこで、視点を変えて「現場では不要に見えるかもしれない。でも、会社全体にとって必要なのだ」ということを伝えました。理解してもらうのには時間を要しましたが、機械式時計部門でのトライアルがうまくいって成果が出たことで、グループ全体に展開しやすくなったと思います。
河島 当社の場合、長い歴史の中でスキル管理に挑戦したものの、運用が続かなかったことがあります。そのため、従業員からすると「今回は本当にできるのか」といった半信半疑の気持ちもあります。その状態で取り組みを進めるのは、難しかったですね。
小林 半信半疑の従業員に、折れずに前向きに取り組んでもらうためには、個人のキャリアや業務におけるメリットを感じられることが大切です。人事や経営者の視点だけでうまみを語っても「こんなに大変なのに自分にはメリットがない」と感じてしまうでしょう。
個人の成長に寄与する、あるいは課長職にとって力量の管理が効率的になるといった、各レイヤーが享受できる価値を適切に示すことを意識していました。
“具体”を求める現場と、“抽象”を求める経営 どちらに答えるべきか
——それぞれの立場で異なるメリットをていねいに伝えることで理解を促したのですね。では、最後3つ目の「運用」のむずかしさを教えてください。
河島 これは、製造業特有の問題かもしれません。製造業のスキル管理はとにかく細かいんです。同じ作業工程でも、扱う機械によって異なるスキルが求められることもあります。たとえば、高級時計とリーズナブルな時計の開発では必要なスキルが全く違うのです。
人事や経営からすると、似たスキルを大まかにまとめたくなるのですが、開発からすると「全然違う」となって納得されません。一方で、経営側はある程度抽象化されたスキルの全体像を捉えたいというニーズもあります。ただ、ここで経営側の意見を押し付けて「大まかなスキルマップ」で運用してしまうと、現場の協力は得られなくなってしまうと考えました。
結果的に、細分化したスキルも、抽象化したスキルも両方見られる運用が必要だと考えています。現在は現場視点で細分化したスキルで運用しており、今年度中に抽象化を進めていく予定です。Excelでは1つのテーブルの中で具体と抽象を行ったり来たりすることは難しいので、スキル管理システムを活用する意味があると感じています。

