不動産業界は、今後の人口減少を見据えたビジネスモデルの変革が求められています。具体的には、新築物件の大量開発・分譲中心のモデルから、既存のアセットの保有・運用・再生を通じて価値を生み出すモデルへの変化や、街づくりやエリアマネジメントを軸とした事業の多角化、海外展開などです。同時に、生成AIやPropTechの進化によって、査定・マッチング・契約実務までが急速に再設計されつつあります。このような環境下だからこそ、事業価値の創出と業務の生産性向上双方において「人」の価値はむしろ高まっており、人的資本の最大化が極めて重要となっています。そこで今回は、事業成果と相関を持つ従業員エンゲージメントを起点に、不動産業界の特徴を見ていきます。
データで見る不動産業界のエンゲージメント傾向
まず、不動産業界のエンゲージメントの傾向を見るにあたって、分析方法と分析結果をお伝えします。
分析方法
本記事では、リンクアンドモチベーションが提供する従業員エンゲージメント向上サービス「モチベーションクラウド」のデータをもとに分析を行います。この調査では、会社基盤や理念戦略などの「全体視点」から、直属上司の情報提供や支援行動、職場の目標共有や変革活動といった「現場視点」まで16領域において、従業員が会社に求める「期待度」と現状の「満足度」のギャップを測定しています。
分析結果
- 不動産業界全体のエンゲージメントスコア平均は全国平均を上回り、業界全体としては比較的高い水準にあります。スコア分布を見ても、全国平均以上の企業が全体の7割超を占めており、業界内でのばらつきも比較的小さいことがうかがえます。
- 他業界と比較して、満足度はほぼすべての領域で全国平均を上回り、特に「施設環境」「会社基盤」の満足度が高いことが特徴です。
- 階層別に見ると、いずれも全国平均を上回っているものの、その差分にはばらつきが見られます。部長や20代、30代は全国平均を上回っているのに対し、課長はほぼ同水準にとどまっており、上振れ幅が最も小さく停滞気味であることがわかりました。
- ハイロー分析でも、エンゲージメントの高い企業と低い企業の差が最も大きいのは課長層でした。他の階層以上に企業間でスコアの開きが大きい層であることがわかります。
考察——不動産業界の課題は「課長層の停滞」
業界全体ではエンゲージメントの高い不動産業界。注視すべきは、「課長層」です。課長層のエンゲージメントは全国平均とほぼ変わらず、エンゲージメントの高い企業と低い企業において最も差が開いており、重要なポジションでありながらボトルネックとなりやすい現状が見て取れます。
エンゲージメントスコアと相関の高い項目に着目すると、起きている状況がより鮮明にわかります。業界全体および課長以外の階層(部長、30代、20代)において、最も相関性の高い項目は「全社的な連帯感」です。しかし、課長層では相関が高い順に、「理念の発信と伝達」「継続的な改善活動」「戦略目標の発信と伝達」となっています。
つまり、多くの階層にとっては「会社に一体感を感じられているか」がエンゲージメントを左右しますが、課長層は「会社や上司(部長・経営陣)が理念や戦略をどれだけ課長に向けて発信し、伝えられているか」が重要だということがわかります。本来、経営と現場をつなぐ役割である課長と、経営陣や部長との対話が十分かどうかが、課長層および全社のエンゲージメントの高低を分けているといえます。
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花岡 健太(ハナオカ ケンタ)
株式会社リンクアンドモチベーション コンサルタント モチベーションエンジニアリング研究所 研究員。
東京大学農学部卒業後、大手損害保険会社を経て中途入社。従業員エンゲージメント向上サービス「モチベーションクラウド」やコンサルティングを通じて、100社超の組織変革を支援。現在は、研究員としてデータ分析・活用も担う。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

