本稿は、ICTを活用した次世代教育を知りたい先生・親向けWebメディア「EdtechZine」で公開中の記事を転載したものです(元記事)。
なぜエンジニアは足りないのか
議論に先立って、まずモデレーターよりエンジニア不足の実態について、簡単な解説があった。現在、求人市場全体が売り手優位である。どの業界でも人手不足の傾向は見てとれるが、エンジニアの求人が全体を押し上げているという。職種別で見た場合、技術系(IT・通信)の2017年10月の求人倍率は約7倍だ。ある調査では、2030年までに控えめに見ても40万人、高位シナリオでの試算だと約80万人ものエンジニアが不足すると言われている。現在エンジニア人口が90万人程度と言われているので、少なく見積もっても2030年までに1.5倍まで増やす必要がある状態だ。
その一方で、意識アンケートでは「自身の職業は人気がある」と思うエンジニアは少ないとの結果も出ている。以上の現状を踏まえて、なぜエンジニアは不足しているのか? 最初の質問はここから始まった。
藤川氏は「エンジニアは、永遠に不足しているべき。足りている状態だと成長しないから」と話す。不足している理由の1つは、ニーズがあふれているからだとした。ニーズはあるのに、エンジニアになりたいと思っている人が少ないことが原因ではないか。採用側が、エンジニアを必要としているということは、新しい挑戦があり、市場を広げたいと思っているということ。市場を広げる余地があるということでもある。
そのため、それでもハードルを下げてまで採用しようとは思っていないと藤川氏は語る。
「企業としては、いい人のレンジは基本的に狭い。たくさんの人を面接し、たくさんお断りしているし、お断りされている。やはり、双方の希望や条件がそろわないと簡単には採用できない。必要なのはチームに入って活躍してくれる人。そのため、自分単独では判断しない、不安があれば採らない」(藤川氏)
ただし、高望みだけしても人は来てくれないので、いい人を採りたいなら、企業も選んでもらえる魅力的な企業にする必要がある。結局、身の丈にあった求人にしないと採用はできないとした。
実務経験がなくても道はある
学生を送り出す立場にある山崎氏からは、すかさず「採用の基準は?」と質問がなされた。
これに対し、藤川氏の会社は、採用時にコードを書かせるといったテストは今のところしていないと回答。単独で判断することはないとの言葉どおり、マネージャやリードエンジニアにも会わせて合議で決めるという。最終的には「感覚」に近いかもしれないとも語った。
なお、藤川氏の会社は、小所帯なので第2新卒、中途がメインで新卒採用はできていない。入社後の教育への投資が限られるので、ゼロベースからの採用は難しく、やはり、どれだけ現場で苦労したか、修羅場をこなしてきたかといった実務経験で判断する部分が大きい。ただ、このような経験は、個人や学校でもできる可能性がある。「フリーソフトや立ち上げたサイトが人気となった経験や、問い合わせの対応、インフラの整備といった経験でも考慮の対象になりうる」と藤川氏は言う。
育成側の山崎氏は、「開発スキルやプログラミングスキル、デザインスキルなどは、学校で教えることができるし、学校教育でそのような人材を育てることは可能だが、採用側が実務経験を気にするのは理解できる。個人や学校の活動でも一般の人を相手にしたサービスやシステムなら実務経験に近いといった意見を参考にして、大学でも考えてみたい」と応じた。