今回の「人事データ活用入門」について(編集部)
本記事は、人材育成や組織開発などの支援を行う株式会社リクルートマネジメントソリューションズの「連載・コラム」コーナーで、2018年5月21日に公開されたこちらの記事を、同社のご協力によりIT人材ラボへ転載しているものです。
対応のない二要因の分散分析を行う意義
まず、第7回にご紹介した分散分析で用いる用語をおさらいします。
分散分析では、比較を行う際の切り口を「要因」といいます。よって、切り口が1つであれば「一要因の分散分析」、2つであれば「二要因の分散分析」といいます。
また、分散分析には、異なる複数のグループの差を比較する「対応のない分散分析」と、同一の人物・職場などの複数時点の差を比較する「対応のある分散分析」があります。
今回は、「『職種別かつ業績別』の仕事満足度の比較」というケースを例にして、「対応のない二要因の分散分析」についてご紹介します。
では、対応のない二要因の分散分析を行う意義は、どのようなものなのでしょうか。例えば、職種、業績、仕事満足度という3つのデータがある場合を考えてみてください。皆さんは、どのような分析を行うでしょうか?「職種別の仕事満足度の比較」「業績別の仕事満足度の比較」「『職種別かつ業績別』の仕事満足度の比較」と、それぞれの関心に応じた分析を行うと思います。
「職種別かつ業績別」のように、2つの切り口で差の分析を行うと、後の例にあるように、「組み合わせの効果」を確認できます。私は、これこそが対応のない二要因の分散分析を行う一番の意義だと感じています。
なお、分散分析では、「職種別」や「業績別」のように1つの切り口が単独で差の有無に与える影響を「主効果」、「職種別かつ業績別」のように2つの切り口の組み合わせが差の有無に与える影響を「交互作用」といいます。つまり、「交互作用」を確認できることが、二要因の分散分析という手法で分析することの意義であると思います。
続いて、主効果と交互作用について、具体的なイメージの説明をします。
主効果と交互作用
図表1は、仕事満足度の得点が、職種(営業職・企画職)や業績(高業績群・低業績群)によってどのように異なるのかを見たグラフです。図表1-1から図表1-4をそれぞれご覧ください。
まず、図表1-1と1-2を見比べてみてください。直線の傾きと、実線・破線の間隔が異なることが分かります。これらの図の例で直線の傾きがあるということは、職種別に仕事満足度の差があることになります。また、実線と破線が離れているということは、業績別に仕事満足度の差があることになります。よって、職種、業績について、図表1-1はいずれにおいても「主効果がない」、図表1-2はいずれも「主効果がある」といえます。なお、両者とも、実線と破線の傾きは同一なので、業績と職種を組み合わせた効果はないため、「交互作用はない」ということになります。
では、「交互作用がある」とは、どのようなものでしょうか。1つの例は、図表1-3のように、職種によって業績別の差の大きさが異なる、すなわち直線の傾きが異なる場合です。図では、営業職よりも企画職において、より業績による仕事満足度の差が大きくなっています。
もう1つの例は、図表1-4のように、直線が交わっている場合です。図では、営業職では高業績群の仕事満足度が低く、企画職では高業績群の方が仕事満足度が高いというように、職種によって業績と仕事満足度の関係が逆転しています。
この他にもさまざまなバリエーションがありますが、「職種別と業績別」という2つの切り口を同時に用いて差を確認した際に、「組み合わせによる特別な差の傾向」が表れる場合、交互作用があるということになります。
「交互作用」を発見することは、実務上も大きな意味があります。例えば図表1-3のような場合、「高業績群の方が仕事満足度が高い」という傾向が企画職では大きく、営業職では小さいということが確認できれば、それは業績と連動したインセンティブの効果が営業職と企画職で異なることを意味するのかもしれません。このようなことを掘り下げることで、職種別に仕事満足度を高めるためのヒントを得ることができます。
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