時代はSoRからSoEへ――仕様の正解が社内では見つからない
企業システムを取り巻く環境に変化が起きている。企業システムはSoR(System of Record)とSoE(System of Engagement)に大別され、それを取り巻く経営環境は前者から後者へと軸足を大きく変えつつある。
前者は“モード1”とも呼ばれ、情報を正しく記録するためのシステムを指す。ユーザーは社内の従業員が中心で、具体的には取引状況を長期間に渡って記録する販売管理システムや人事システムなど、ビジネスの根幹をなすいわゆる基幹システムである。システムに変更が加えられる頻度は多くなく、稀に生じる変更の影響範囲が非常に大きいという特徴を持つ。
一方、後者は“モード2”とも呼ばれ、取引先の顧客や一般消費者との関係性や「絆」を作るシステムを指す。その仕組みはユーザビリティが重視されており、社会の変化や競合他社の動向に俊敏に対応することが求められるという特徴を持つ。競合他社のシステムよりも商品を買い求めやすいデザインや、競合他社の始めた新サービスにも即応できる俊敏性が求められ、社内だけで仕様を決められないことも特徴の一つだという。
鈴木氏はこうしたことを説明した上で、「これまでのSoRを大切に使ってきた時代からSoEをより早くどんどん作っていこうという時代に変わってきています。ITをコストとして捉えるのではなく、売り上げを生み出すための仕組みとして捉えていこうということです」と指摘する。
「販売管理システムがなければ商品を売ることも送ることもできないので、SoRがなくなることは当然ありません。ただ、多くの経営者はITを通じて売り上げを伸ばすこと、すなわちSoEに興味を持っているのです」(鈴木氏)
ただし、SoEにおいてはユーザーが社内にいないことが多いため、社内で仕様を決めることが難しい面がある。従業員に実際に代金を支払うユーザーの気持ちになれと言っても100%はなり切れない。つまりは、仕様に関する正解が社内に存在しないわけである。
加えて、市場環境に変化が生じ、特定の商品やサービスが突如として売れ始めた場合、システムも追従していかなければならない。こうした変更が頻繁に加えられるのが、SoEのもう一つ大きな特徴だ。
「SoRからSoEへの変化は、システム開発のやり方が計画主導型から変更主導型へ変わってきていることを意味します。最初に仕様を決めやすいSoRにはウォーターフォール型の開発プロセスが向いており、仕様の変化が頻繁に起こるSoEの開発にはスクラムをはじめとするアジャイル型の開発プロセスが向いています。SoEの場合、要件定義をしてもどんなシステムが最適なのかがわかりにくいこともあり、小さくスタートして変更を繰り返していく必要があるのです」(鈴木氏)
最初にスコープを決め、それを基に計画を立て、立てた計画を守るべきだと考えるウォーターフォール型に対して、リソースを固定化してスコープを変更していくアジャイル型のスタイルは、最適解の見えにくいSoEに向いている。そしてSoEにおけるアジャイル型は、開発プロセスだけでなく、エンジニアのマインドセットや使用するテクノロジーにも変化が生じさせる。