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組織をつくるHRデザイン学科 | 第1回

今こそ体系的な「オンボーディング」に着手するとき――3つの趣旨・3つの背景

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 米国では、採用の次に重要なHRテーマとされるほど定着している「オンボーディングプログラム(EOP:Employee Onboarding Program)」。日本国内で体系的に導入しているケースはまだまだわずかでしょう。しかし、コロナ禍を機に在宅ワークが定着するなか、企業は意識してオンボーティングに取り組まないと、採用した従業員が宙ぶらりんのまま定着できず、離職につながる恐れもあります。しかも、いま人材は売り手市場。簡単に人を採用し、合わなければまた採用……とはいきません。今こそ、体系的なオンボーディングに着手するときです。本連載ではオンボーディングの考え方を述べるとともに、その導入アプローチを、多くの日本企業が直面するであろう「壁」を加味しつつ紹介します。

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オンボーディングの基本的な理解

 皆さんには改めて解説する必要はないかと思いますが、復習を兼ねて、簡単に共有をしておきます。on boardとは、船や飛行機に乗っている状態。on-boardingとは、「企業/組織」を船や飛行機に見立てて、on boardさせるためのプロセス、つまり、「新しい従業員が、迅速かつ円滑に組織や仕事に適応し、機能するために必要な『知識・スキル・行動』を身に付けるための、統合化されたプロセス」(※米国HRマネジメント協会による定義)を指します。

 これだけ聞くと、「昔から、新しい従業員に対する説明会や歓迎会もやっている」「入社から数か月はメンターをつけて面倒を見させている」……それと何が違うんだ? 特段新しい概念を指しているようには思えない、という方もいるかもしれません。今までも、局所局所では、新しい従業員に対するサポートは行われていたでしょう。しかし、オンボーディングとは、それらのいわゆる「従来型のサポート」とは、以下3つの部分で大きく異なります。

① 目的がより上位にあること
単に、組織や業務を説明する、組織の既存メンバーを紹介する、といったようなことではなく、「組織カルチャーへの共感」「コミュニティとの同化」「自己効用感の醸成」という、3つの目的の下で進めるものである。
② 組織全体で統合的に取り組むこと
①の目的に基づいて、トップマネジメント、人事部、配属先の事業部、他事業部などの連携を通じた「つながりのある従業員体験」をつくることこそがオンボーディングの本質である。
③ 一定の時間軸の中で展開すること
ワンショットで何かを行って完了、というものではなく、内定前から始まり、入社日、そして最初の2週間、そしてその後の3か月……というように、一定の時間軸の中で継続的に実施する。

オンボーディングの取り組みイメージ

 上記のような 「3つの趣旨」の下で展開されるオンボーディングプログラムについて、その取り組みをイメージしていただくため、米国企業の中でオンボーディングを積極的に実施しているLinkedIn、Facebook、Netflix、その他企業の事例からいくつかをピックアップしてご紹介します。

内定通知~入社前

リアルなシーンからカルチャーを伝達
転職決定と同時に、Culture Code[1]と、同社内でのランチやイベントの模様など、リアルな会社生活の写真が投稿されているInstagramのリンクを本人に送付。リアルな職場環境を閲覧させ、独自のカルチャーの伝達と、働くことの実感を湧かせる。
Welcome Pack
Welcome Packとして、転職者が入社日に向けて知りたいことを纏めたインタラクティブPDFを送付。入社日の予定だけでなく、社内の様子や、初日にどんな洋服を着れば良いかといった細かいことも伝える。

入社日(一例)

良い初日ではなく“最高の1日”にする
新しいラップトップやソフトウェア・アプリをセットアップするなど、必要なことを全て初日の前に実施。オリジナルノベルティを転職者の机へプレゼンテーションすることで、転職者に対して期待や興奮を伝える。
カルチャープレゼンテーション
複数の上級管理職から、同社のカルチャーについてのプレゼンテーション。会社の歴史、会社の初期のモットーなどをレクチャー。
オンボーディングロードマップ
1日の終わりに、今後12週間のオンボーディングロードマップを提供。それに沿ったフォローアップが毎週催され、新しい役割での生産性向上および成功をサポートする姿勢を伝える。

入社後2週間(一例)

即座に業務を割り当て、完遂させる
エンジニアに対しては、入社後に早速「バグの修正」に取り掛かからせる。最初の1週間以内に、10億人超のユーザーにコードをプッシュする機会を提供。大きな自信と、組織に貢献している実感を与える。
他部署のリーダーに会う機会を提供
他部署のリーダーに会う機会も提供。他部署の業務を知ることで、会社の大きなビジョンを達成する上での自部署の役割を理解するだけでなく、エキサイティングな人やプロジェクトに触発されモチベーションが高まる。
同期との横のつながりを結成
同じタイミングで入社した転職者同士を、大学のサークルの仲間のような存在にする。同期との絆が培われ、導入研修が終わった後、組織横断コミュニケーションを発生させることも目的とする。

入社後3か月(一例)

トップマネジメント層とのインフォーマルミーティング
経営陣との、小グループでカジュアルに面会する機会を提供。同社のカルチャーやミッションに対するより深い理解を促す。
オンボーディング担当者によるトラッキング
所定の期間内で、オンボーディングプログラムに関わる人間が、適切にオンボーディングを実施できているか、結果として対象者に狙い通りの意識や行動を生み出すことにつながっているかについて、定点的にトラッキングする。

[1]: 組織文化を端的に表現したもの。本連載の後の回で取り上げます。

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この記事の著者

楠本 和矢(クスモト カズヤ)

HR Design Lab. 代表 兼 博報堂コンサルティング 執行役員。「マーケティングとHR領域の融合」をテーマに、現場での実践に基づいた様々なHRソリューションを開発提供している。現在は、組織の創発力強化・生産性向上を目的とした取組みに注力。また博報堂グループ内での実績No.1ビジネス研修講師でもある...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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