専門用語と単語帳についてのエピソードは前回をお読みください。
専門用語が理解できたら、次は求人の読み込みに取りかかりました。エンジニアを採用するためには、自分自身が求人を理解し、説明できるようになる必要があると思ったからです。そのために、過去に掲載していた自社のエンジニア求人を引っ張り出して読み漁り始めました。
「PHPというプログラム言語が使えるエンジニアさんを募集している内容は理解できた。でも、ウチの会社以外にもPHPのエンジニアを採用している会社はきっとある。他社の求人票がどんな内容で書いてあるのかを見て勉強してみよう!」と思い“Find job”と“Green”を開いてみることにしました。するとそこには恐ろしい現実が私を待ち受けていました。
どこもかしこも、PHPエンジニアを募集しているじゃありませんか! 時はPHPエンジニアブーム。ざっと数えても50社以上の求人票が掲載されていることに焦りと危機感を感じました。
しかし、ここで人事としてやっていくと決めた以上、避けては通れない道なのだ――そう覚悟してしまうと、今度は元営業マンである私の闘争本能に火が付きました。「競合を知らなければ戦いには勝てない! 片っ端からここに掲載されている求人を読み込んでマスターするぞ!」とひとり意気込む私。ところがそのとき、エンジニア責任者の神山さん(仮名)からExcelファイルがメールで送られてきました。
「宇田川さん、PHPエンジニアを採用したいので、いつも掲載しているFind jobにこのExcelの内容で求人を出しておいてください。念のため、前回出した求人のURLを添付しておきます」
そのExcelファイルには、箇条書きでサービス内容と業務内容が書かれていました。ただ、そのExcelファイルを見ていると、疑問がたくさん湧いてきました。
- きっととても急いでいるよね。でも何のための採用かな? 増員? それとも前任が辞めちゃった? 何人採用したいのかな?
- ウチの会社にはエンジニアさんが何人いて、このサービスは何人のエンジニアさんで開発しているのかな?
- どんなお人柄のエンジニアさんが、ウチのエンジニアさんとフィーリングが合うのかな?
- 調べてみると……PHPエンジニアといってもインターネット広告やゲーム、メディアいろいろな種類に分かれているみたい。どんなサービスを作ってきたPHPエンジニアを求めているのかな?
- Find jobにはたくさんのPHPエンジニアの求人が掲載されているけど……神山さんからもらったこの求人内容は、PHPエンジニアから見たら他社との違いが伝わるものなのかな?
- 前回のFind jobの掲載で採用できたエンジニアさんは誰だろう? そのエンジニアさんがたくさんのPHPエンジニアの求人の中からウチの会社を選んでくれた理由って何だろう?
私は、物事に対していろんな疑問が浮かんできてしまう“たち”で、前職では「なんで?なんで?女」と呼ばれていました。「この疑問をクリアにしなければ求人原稿なんて書けるわけがない!」と思い、神山さんのデスクまでそっと近づいて話しかけてみました。ところが、
「あの~先日ご挨拶させていただいた宇田川です。先ほどの求人の件なんですが……」
「メールしましたよね? あれで全部です。次、会議入ってるんで」
と会話をシャットアウトされてしまいました。
「拒絶されてしまった。理系男子のエンジニアさんに対して私の伝え方が悪かったのかな? いったんメールで連絡すればよかったのかな? これからどうしよう……」
と落胆しながら自分の席に戻ると、以前、専門用語をまとめたExcelファイルを作って送ってくれたエンジニアの熊田さん(仮名)から、メールが届きました。
「宇田川さん、どうした? 今ちょっとこっち忙しくて……タイミング悪いかもしれないよ」
「天の助けだ!」と思った私はすがる思いで熊田さんに返信しました。
「忙しいところ本当にごめんなさい。実は、ちょっと聞きたいこと……というか疑問がたくさんあって。落ち着いたらで大丈夫なので、少しだけ時間もらえないですか?」
「OK! 落ち着いたらメールするからちょっと待ってて」
ありがたい! でも、「この間みたいに1から10まで聞いたらいけない! ググれっと言われる前に限界ギリギリまでググって準備しなくちゃ!」と思い、熊田さんと話すための材料を集めて、疑問に思っていることを箇条書きで書き出していきました。
2時間後、熊田さんより「いったん落ち着いたからルノアールに行かない? 現地集合で~」とメールで連絡が来ました。私は、急いでカバンにPCと作成した資料を詰め込み、ルノアールへ向かいました。