自社にとって“ITを活用して”業務効率化を図るべき領域はどこか
1990年にバックオフィスに特化したコンサルティング会社として設立されたエフアンドエム。個人から小規模事業者、中小企業とさまざまな企業や法人の管理部門をサポートする中で、必然的に接点が多かった税理士や公認会計士など士業に特化した支援事業を展開するようになった。現在は「管理部門から利益を生み出す」のコンセプトに、財務・総務・人事・労務といった管理部門、いわば会社の基礎となる部門に対するコンサルティングを行っている。
2016年にはクラウド人事労務システム「オフィスステーションシリーズ」をリリースし、着実に利用顧客を増やしている。「手続き業務に追われる士業の先生をITで支援したいとの思いから士業向け『オフィスステーション』を立ち上げ、後に人事労務担当者向けの要請があって企業版を立ち上げた」と池邉氏は経緯を語る。現在は、労務・Web給与明細、年末調整、有休管理など機能別のラインナップがそろう。
同シリーズの大きな特徴として、必要な機能だけを選択して利用できる点がある。この点について池邉氏は「企業によって、すでにシステムが入っている部分や、効率化を希望する部分が異なるため、必要に応じてコストを抑えつつ導入できる“アラカルト方式”にしている」と説明。その上で「企業自身が『自社にとってITを活用した業務効率化を“まず”図るべき領域はどこか』を考えることが重要だ。そのゴールに至るヒントを提供したい」と意図するところを明かした。
コロナによって変わる社会と働き方、求められるバックオフィス業務の改革
近年、私たちを取り巻く環境を劇的に変えたものに、コロナウイルスの蔓延がある。働き方改革法案の可決を受け、それ以前からテレワークも含めた働き方改革に着手してきた企業も多かったと思われるが、これほどまでに強制力をもって変化したのはコロナ以降といえるだろう。
池邉氏は内閣府の資料を引用しながら、経済・生活として「サプライチェーンの強靭化」や「東京一極集中の是正」、働き方については「押印の見直し」や「テレワークの推進」、教育や行政、医療、防災でもオンライン化が進んでいることを紹介した。さらに、コロナ禍で奈良市役所で一部の窓口業務が停止されたり、大阪・梅田のハローワークが閉鎖されたりしたことを挙げ、「これらは異例とはいえ、今後は国や地方など行政窓口での提出業務は電子化される見通しだ。今後また何かが起きて他行政の窓口対応が難しくなったり、時間短縮されたりした場合に備えて、オンラインでの申請や請求ができる環境を整えておく必要がある」と指摘した。
さらに、今年4月に行われたITRの「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査」のアンケート結果を紹介。企業のコロナ禍対策の上位は、「テレワーク制度の導入」「リモートアクセス環境の新規・追加導入」「コミュニケーションツールの新規・追加導入」というように、テレワークやコミュニケーションに関連したものだった。また、紙を伴う手続きに対する関心についてのアンケートでは、PCやモバイル、ネットワークなどデジタル周りの増強に加え、社内取引文書・社内文書の電子化対象の拡大など、全体的に「文書の電子化対象を拡大すること」について関心が高っていることも示された。池邉氏は「遠隔・非対面での手続きへの対応が求められ、新しいコミュニケーションとペーパーレスへの関心が高まっていることの現れ」と分析した。
それらのうち、バックオフィスが抱える文書の電子化対象に社内文書がある。とかく紙が多く、制度対応が必要でチェックも多い。バックオフィス業務を年表に起こしてみると通年の給与計算のほか、年末調整や3〜4月で新入社員の受け入れなどイベントが多い。池邉氏は「一つひとつ効率化を図れば、1年後には全体最適化がかなう。特に、これからのシーズンは年末調整という全社業務があり、改革のチャンスともいえる。そうした視点から、ぜひとも『自社が解決すべき課題』を改めて考えてほしい」と語った。
続々と可能になる電子申請にe-GovとのAPI連携で簡便に対応
それでは具体的にどのような制度があり、どのように解決を図ればよいのか。すでに2020年4月以降は電子申請の義務化制度が開始されており、売上高1億円を超える企業は、健康保険・厚生年金保険関連、労働保険、雇用保険などの主要な手続きについて、全て電子申請にしなければならない。
そして、電子申請はどのくらい普及しているのか。法人税の申告では80%。一方、社会労働保険の手続きでは15.3%にとどまる。なぜこれだけ乖離があるのか。池邉氏は「大きな理由は、難しさや手間がかかるため」と分析する。電子申請をする場合、電子政府の総合窓口である「e-Gov」か、それに関連したベンダーを使用する。e-Govの利用者へのアンケートでは事前準備について75%が、操作性について65.6%が「難しい」と回答しているように、手間やコストがかかり、アナログに逆戻りしてしまう傾向があるというわけだ。
池邉氏は「e-Gov直接はもちろん日本年金機構のサイトを経由しても、ともすれば紙よりもコストがかかるリスクがある。そこで、社会保険などの電子化をしたいと考えるなら、e-GovとのAPI連携に対応している民間のアプリケーションで扱いやすいものを活用することがお勧めする」と主張。ただし、「社会保険労働保険の電子申請を行うgBizIDがあるが、こちらは11種類と極端に少なく、2020年の電子申請義務化が定められた帳票は15種類であるのに網羅していないので注意してほしい」と語った。
そして、もう一つの大きな変化といえば、労働条件通知書が電子化解禁にされていることだ。これまで紙しか認められていなかったものが、2019年4月からは電子交付が許可された。入社手続きに必要な個人情報、扶養控除申告書、企業によればオリジナルの誓約書やSNS規約書なども、電子化書類での申請が可能になっている。
「オフィスステーション労務」で社内データの収集から申請がワンストップに
オフィスステーションシリーズの一つである「オフィスステーション労務」では、こうした「社保・老舗の手続き」のほか、従業員から直接情報を収集できる「従業員マイページ」、そして人事関連の情報に関する「ワークフロー」などの機能を持っており、HR領域における従業員からのペーパーレス情報収集や行政機関へのワンストップ申請を実現するという。
まず、「社保・労保の手続き」については、イベント別のボタンを押すと、健康保険、労働保険、雇用保険などの入力フォームが出てくる。これは実際の帳票ではなく、分かりやすいフォームになっており、上から順に入力していけば実際の帳票が出来上がるという仕組み。e-GovとAPIでつながっているため、あとはそのまま提出すればよい。これまで半日仕事だった提出作業がものの数分で終わってしまうというわけだ。
また、特に人気のある機能が「従業員マイページ」だ。入社手続きや氏名変更、年末調整、住所変更 扶養増減時などに情報を各自で入力してもらうというもので、遠方の営業所勤務でもテレワークでも顔を合わせることなく情報をダイレクトに取ることができる。このデータを用いることで行政手続きの提出が迅速に完了できる。池邉氏は「電子申請がどんなに便利で、システムを入れたとしても、それ以前の社内の従業員から情報を集めるところにおいてもデジタル化をしなければ、半分しか利便性は得られない」と社内情報のデジタル化の重要性を訴えた。
なお、オフィスステーション労務では、マイページへの入力は極力選択式になっており、クリックして選択していけばデータとして入力されている。あとは紐付いてサインを取ればOKということになる。通勤経路入力にGoogle Mapを使い、口座情報入力もすでに入っている銀行情報から選ぶだけでよい。他にもパート・アルバイトといった有期雇用者への労働条件の通知と合意が簡単にでき、部署や役職など閲覧権限も容易に設定できる。また、誰がどう申請して承認、決済を行うか、ワークフローも簡単に設定できる。
「オフィスステーション年末調整」で所要時間を1/3に
バックオフィス業務の年中行事といえば、やはり年末調整だろう。年末調整は毎年大きな工数が発生することが多いが、「オフィスステーション年末調整」を利用すれば、それらを全てオンラインで行えるため、書類を手渡しする必要も郵送する必要もない。
池邉氏は、紙で年末調整などを行なう難点として、管理者側では「申告書の印刷・配布」や「問い合わせ対応」など、従業員側としては「どこを書けばよいか分からない」「記入・捺印が必要」などを挙げた。さらには、大きな税制改正が行われていたことを紹介。中でも、「給与所得控除の見直し」や「扶養親族等の合計所得金額要件の見直し」などは影響が大きく、書き方例を作成する手間やチェック業務によるやり取りの増加が懸念される。
国税庁も「マイナポータル」と連携して申告ができるソフトウェアを用意している。無料で仕えるメリットはあるものの、“マイナポータル”を利用するために従業員がすべきこともなかなか煩雑なものがある。特に従業員により、紙とWebの提出が混在する可能性が高いが、本来は「足並みをそろえること」が重要だという。
さらに、池邉氏は「税制が変わると申告書のレイアウトが変わる、そうすると質問と不備が増える、そうすると管理者の手が止まってしまうということになる。となると、従業員への難易度が変わらないということが重要になる」と指摘。また、コロナ禍のさなか、「紙は除菌できない。用紙が送られてクラスター発生などはしゃれにならない」と、コストや手間以外の紙の行き来によるリスクを強調した。
こうした情報をスムーズに集める手法として、オフィスステーション年末調整が有効だという。その際たる特徴が「紙を一切配らないこと」だ。「はい」か「いいえ」で答えるアンケート方式になっており、申告書の捺印も不要。年収を入れれば所得を自動計算するなど、便利な機能も多数入っている。
また、生命保険料控除用の書類も写真を撮ってアップロードしてもらえば、原本を待たずしてチェックできる。従業員画面では必要資料添付台帳をダウンロードできるようになっており、当該項目をチェックした後に原本を貼り付けして提出してもらう。
他にも、昨年のデータのリサイクルで入力の手間を省くほか、前年データとの相違がある項目を目立たせるなど、管理の負担も減らす仕掛けも凝らされている。データチェックが終われば、PDF形式でもCSV形式でも必要に応じて一括ファイル出力を行える。
CSVファイルで出力できる理由として、池邉氏は「あくまでオフィスステーションで行うのはデータの収集およびチェックまで。年末調整の最終工程になる税額計算は、給与ソフトなどに流し込んで行う必要があるが、どの給与ソフトでも対応しているのがCSV形式」と語る。つまり、CSVファイルで出力できれば、税額計算のために給与ソフトを変えたりする必要がなくなるわけだ。
なお、オフィスステーション年末調整には源泉徴収票の機能もあり、給与ソフトで固まったデータを再度取り込めば、自身のマイページでチェックすることができる。
池邉氏は「オフィスステーションによって、税制改定を調べる手間もなければ、紙を配る必要もない。マイページを発行するだけで正しい情報を得られるようになり、導入企業で平均して所要時間が3分の1になるほど業務効率化が進んだという報告がある。ぜひ、まだ2020年分も間に合うので、ぜひとも試してみてほしい」と語った。
なお、同社では給与明細のペーパーレス化を図れる「オフィスステーションWeb給与明細」も提供している。同サービスでは、給与ソフトからCSV出力したデータを登録すると、給与明細をブラウザー上で閲覧できるようにしたり、PDFファイルで配信したりできる。給与明細の作成も基本的には名称をカスタマイズするだけでよい一方、レイアウトについての自由度は高い。従業員によって支給時期が異なっていても、配信グループを変えられるので問題なく配信できる。紙を希望している場合は、自身で印刷するという仕組みだ。
最後に、池邉氏はシステムを導入する際の注意点として、「パッケージ型サービス」と「アラカルト型サービス」の違いを説明。「パッケージ型では使わない機能も購入することになり、従業員単価が高くなる傾向にある」と重複するリスクが高くなることを強調、改めて使いたい機能を選んで購入できるアラカルト型のメリットを訴求した。
池邉氏は、「たとえば、10月から年末調整の最適化、3月に向けて新入社員への入社対応といったように、自社ならではの改革ストーリーを思い描いてほしい」と語り、「『従業員からデータを取りたい』という課題感をお持ちの方は、オフィスステーションでクラウドを通じて取得する仕組みを考えてみてはいかがだろうか」と訴え、セッションを終えた。