なぜ、業務システム開発でHTML5の利用が急増しているのか
――2014年10月のW3Cによる勧告から2年が過ぎて、HTML5そのものは私たちの周りに普及してきた印象がありますが、肝心のそれを生かせる仕事というと、まだおぼろげなイメージしかありません。具体的には、どのようなものがあるのでしょうか。
和田真輝氏(以下、和田):HTML5はすでに多くの分野で利用されています。一般の方々からも注目を集めるキーワードでいうと、たとえば、WebバーチャルリアリティやハイブリッドWebゲームアプリなどの世界があります。そうした硬軟取りまぜた中で、いま堅い分野の代表格としてIT技術者の注目を集めているのがエンタープライズ分野、いわゆる業務システムの世界です。
業務システムの開発でHTML5を使う企業には、大きく分けて3つのタイプが考えられます。
- エンタープライズ向けのソフトウェアパッケージを開発・提供している企業
- 自社およびグループ会社で利用する業務システムを自社開発している企業
- 業務システムを受託開発している、いわゆるシステムインテグレータ
――なぜこれらの企業は、HTML5を使うようになったのでしょうか?
和田:Webベースの業務システムに、優れたユーザーエクスペリエンス(以下、UX)を組み込むためです。HTML5は、ユーザーが使いやすいインターフェイスを開発するのに長けています。そのため、業務システム開発においてもHTML5の採用が増えてきているのです。もちろん、優れたUXの必要性が高まる背景や、HTML5を使える技術的条件がそろったからこそ採用が増えているわけですが。その背景や事例を挙げると次の3つになります。
1つ目は「業務端末においてモバイル対応のウェイトが大きくなってきている」という背景です。これまでクライアント端末は主にPCでしたが、現在はビジネスの現場にスマートフォンやタブレットといったモバイル端末が数多く導入されています。特にソフトウェアパッケージを提供している企業は、複数の顧客企業の様々なデバイスでも、そのソフトウェアパッケージを利用できるようにしなくてはなりません。そのため、マルチデバイス対応アプリをワンソースで記述できる「HTML5」が採用されています。
2つ目は「自社およびグループ会社で利用している業務システムにHTML5を利用して構築する」という場合です。私の聞いた範囲では、従来のWebアプリでできなかったオフライン時の業務継続性を確保するために、2010年の開発当時、HTML5のApplicationCacheやLocalStorageといった機能を利用した例があります。
3つ目は「業務システムを受託開発しているシステムインテグレータが画面対応パターン要件の増加、対応ブラウザ要件の増加といった顧客企業の要望を受けた結果、最適な解としてHTML5を採用する」例です。私の知っているシステムインテグレータは、HTML5利用がすでに必須であり、できないことは死活問題につながるということから、HTML5技術を持つ人材の育成に、非常に力を入れていらっしゃいます。
そのほか、HTML5が業務システムでの利用を増やしてきたことと歩調を合わせるように、主にサーバーサイドにスキルや能力を注いできた多くの業務システム開発者が、クライアントサイドの技術であるHTML5を学んでいます。これは、HTML5の普及とニーズの高まりが起こした大きな変化の1つといえるでしょう。